冬に比べると、夕暮れが遅くなってきたのを感じる今日この頃。日中の陽射しはおだやかで心地よく、日は長くなり、いよいよ春本番! 春といえば桜、そしてお花見ですよね。
桜は春を象徴する花として、古くから日本人に愛されてきたイメージがあります。ところが現存する日本最古の歌集『万葉集』では、梅は110首歌われていますが、対して桜は43首。梅のほうが人気だったのです。
それが、奈良時代から平安時代にかけて、花の主役は梅から桜へとうつっていきます。平安遷都の頃、都大路には桜と柳が交互に植えられ、春になると桜の花が平安の都を彩ったのです。平安貴族の間では、桜花を愛でながら歌を詠む花見の宴が催され、のちの武家社会にも受け継がれていきました。一方、農村では春の農作業がはじまる前に、田の神様を迎える花見があり、ご馳走を食べたりお酒を飲んだりして過ごしました。また、桜の花の咲き具合で農作物の出来を占ったといわれています。江戸時代になると、貴族や武家の花見と農村の花見が結びついて、庶民の間で行楽として定着。現代の娯楽的な花見へとつながっていきました。
ところで、「満月に満開になる」という言い伝えをもつ桜があるのをご存知でしょうか。その名も「月光桜」。高知県・大月町の桜です。月光桜が咲く小高い丘の背後から月が昇り、毎年春の満月になると、月の光によって桜の花が白く幻想的に照らし出されるのだそう。ライトアップされた夜桜とはひと味違う光景を、月好きとして一度は見ておきたいところですね。私もまだ見たことがないので、いつか訪ねてみたいと思っています。
満開になった桜の木の下で、ふと思うことがあります。どうして花が咲いているのに、桜の香りがしないのだろうかと。不思議だとは思いませんか?
私たちが桜の香りとして思い出すのは、桜餅を包む桜の葉や、あんパンの真ん中にちょこんとのっかっている桜の花から漂う香り。あの独特の甘い香りの主な成分はクマリンといって、桜の葉や花を塩漬けにする過程で生まれるもの。だから美しく咲いている桜の花からは香りがしないのですね。
桜は、古くから民間薬として使われてきた歴史を持つハーブでもあります。その作用は、解熱や解毒、抗菌など。塩漬けにした桜の花を湯呑に入れて、熱湯を注いだ「桜茶」は、婚礼などのおめでたい席でよく出される飲み物ですが、二日酔いや頭痛にもよいとされています。ほのかな塩味と桜の風味が楽しめて、和菓子との相性もなかなか。春のおもてなしティーとしてお客様にだすのもオススメ。湯呑の中でふんわりと開いた桜を眺めるのも、お花見とは違う趣です。
桜の花が開くのは、年に一度しかありません。その貴重なひとときが今年もめぐってきています。花を愛で、ときに香りを味わって。美しく贅沢な時間を楽しみましょう。
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