2015.04.23 10:15

「ヅカファンだけど彼氏も欲しい」 雨宮まみの“穴の底でお待ちしています” 第22回

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穴の底でお待ちしています

誰にも言えない、けれど誰かに言いたい、そんな内緒の悩みやモヤモヤ、しょうもないグチからやりきれないつらさまで、穴を掘ってこっそり叫んでみたい気持ちを発散する、「感情の吹きだまり」……。そんな場所がこのコーナーです。あなたのやるせない気持ちを、安心してブチまけてみませんか? 雨宮まみが聞き手をつとめます。長文の投稿歓迎いたします。

(はりねずみ/40代/女性)

いつも、鋭くも納得のアドバイス、楽しみにしています。雨宮さんが宝塚をお好きと知り、思い切って、ご相談したいと思います。

私は思春期に宝塚に出逢い、過去に何人ものスターさんを好きになり、卒業を見送っては次にその人に似た面影のスターさんを見つけ……という調子で、かれこれ20年以上、ヅカファンをしています。
それ自体はとても幸せなことなのですが、そのためか、リアルな恋愛にはまったく力を入れることができず、ここまで来てしまいました。別に、宝塚の男役さんのような人が世間にいるとは思っていません(よく誤解されるのですが、そんな人がいないことは自覚しています)。
ただ見ているだけで満たされ、なんならスターさんもファンを大事にしてくれるということがわかる「相思相愛」の世界にいると、とにかく幸せなのです。
劇場空間にいると、自分がまるで羊水の中にいるかのような絶対的な安心感があります。しかも、女性ホルモンが活性化しそうなほど、ときめき萌えることができる対象がいて、それで十分満たされています。ある種、超健全なホストに貢いでいるみたいなものかもしれません。

そういう暮らしを20年近くやっているのですから、幸せでないはずはありません。
でも、公演がないときの真夜中とか、ふっと我に返るんです。「あれ、このまま一人でリアルな恋愛も知らず、年を取っていいのかな」と。
正直、死ぬまで宝塚を好きでいる自分は想像ができるのですが、男性と恋愛し、結婚したりしている老後は想像がつきません。友達とは半ば冗談、半ば本気で、「宝塚ファン同士でグループホームに入ろう」なんていっていますが、それが現実になる日も遠くない気もします。

一度きりの人生なので、後悔したくないと思い、たまに恋愛らしきこともしようとするのですが、舞台を通して「見ているだけで満たされる体質」になっているのか、基本3年くらい、しつこく片思いをして終わってしまいます。

今が幸せならそれでいいと思いながらも、この年齢になると、老後のことも気になり、そろそろ現実もちょっとは見たほうがいいのかとも迷います。
同じ宝塚ファンの雨宮さんだからこそ、どうか、本当のところを教えてください。リアルな男性をいいな……と思えるコツってあるんでしょうか。こんな痛い質問、他ではできず……。どうか、同好の士として、アドバイス、お願いします。

(※投稿内容を一部、読みやすいように編集させていただきました。)

少々誤解をされているようですが、基本的にここは愚痴を吐くための場所で、ズバッと人生の問題を解決する場所ではないんです。ごめんなさい。だいたい、このお悩みに対する答えを、私が持っているわけがないじゃないですか!(オペラグラスを握りしめながら) はりねずみさんのほうがこの件については人生の先輩ですし……。まぁ、とりあえず煎茶とすみれの花の砂糖漬けをお出ししますね。

「劇場空間にいると、自分がまるで羊水の中にいるかのような絶対的な安心感があります」「でも、公演がないときの真夜中とか、ふっと我に返るんです」「正直、死ぬまで宝塚を好きでいる自分は想像ができるのですが、男性と恋愛し、結婚したりしている老後は想像がつきません」……名言の連発に震えました。「過去に何人ものスターさんを好きになり、卒業を見送っては次にその人に似た面影のスターさんを見つけ……という調子で」というくだりは、私のファン生活そのもので、どこかで見られているのでは!? と不安になるほどでした。はりねずみさんは……もしかして近い未来の私なのではないでしょうか。

恋愛ができないことを宝塚のせいにせず、自分に向き合っておられる品のある態度にも心を打たれました。はりねずみさんのように素晴らしいファンとして宝塚を好きでい続けられたらどんなにいいかと憧れます。

人の幸せって、いろいろありますよね。お金があって幸せとか、恋人がいて幸せとか、家族がいて幸せとか、打ち込める仕事があって幸せだとか……。はりねずみさんは「夢中になれる趣味を持って幸せ」という状態なのでしょう。

でも、幸せって必ず一種類しか選んじゃいけないものじゃないし、どれかを選んだらどれかを捨てなきゃいけないこともなかったりします。他の種類の幸せが欲しいと思うのは、自然なことですよね。

リアルな男性を「いいな」と思いたいとのことですが、そうですね、リアルな男性は……いいものです。抱きしめてくれたりします。あたたかいし、優しいし、最高の気分になります。

今って、恋愛は楽しいことばかりじゃないとか、現実はそこまでロマンチックじゃないなんてことばかり言われていますよね。でも、私の数少ない恋愛経験を振り返ってみても、そんなことはないんです。もちろん楽しいことばっかりじゃない。つらいこともたくさんあるし、死んでしまいたくなることもあります。でも、やっぱり恋愛って尊いものです。

誰かと人生の中の楽しく美しい瞬間を共有できたり、お互いに相手が大好きだという気持ちをわかちあったりするのは、すごく幸せなことです。八つ当たりみたいなケンカをしたり、それを許したり許されたり、つらいときや苦しいときになんとか寄り添おうとしてくれたり、相手を喜ばせるためにいろんなことを考えたり……。そこでの出来事は、舞台の上で起きていることと、本質的にはそんなに大きく違うものではないという気がします。本物のキスシーンだってありますしね。

恋愛は、宝塚で言うならば「毎日続く客席降り」(※舞台の上から客席に降りてくること)だと思います。自分が「この人だ」と思った相手が、同じ場所に立ってくれるのです。怖いですよね。緊張してとても話せないと思ってしまいますよね。

でも、舞台の上の人たちは、きれいに降りてきてお客さんの目をしっかり見つめて踊るために、信じられないほどの時間、練習を重ねてらっしゃいます。私たちはタカラジェンヌではありませんが、誰かと出会って、連絡先を聞いて、連絡して、食事や映画に誘って、会話して、ということもまた、積み重ねでどんどん上手にできるようになることだと思うのです。コミュニケーションも練習の積み重ねで少しは上手くなると思いますし、そこから緊張を取り去っていくには、とにかくひとつでも多くの舞台を踏むことしかありません。

そして、相手の目を見つめて、ウインクや投げキッスではなく言葉をかけて、コミュニケーションを取るのです。どんな人なのか、どんなことに興味があるのか……話しているうちに「いい人かもしれない」と思えることもあるかもしれません。最初はそれほどいいと思わなかったけど、あとからどうしても忘れられない存在に変わったりもしますので、いつも感じ良く接していたほうがいいでしょう。

一緒になにか、楽しいことをして、おいしいものを食べるとか、映画を観るとか、なんでもいいのですがお互いに楽しいと思える経験を共有して、いろんなことを話して、心の距離が近づいたとき、その人を「いいな」と思えることは、あるのではないでしょうか。

宝塚は幸せな場所です。最高の場所です。私も、まだまだ少ないですが、何人もの好きな人たちが宝塚を卒業してゆくのを見てきました。宝塚で磨き抜いた「男役」という最大の武器を捨てて、宝塚ではない舞台に立たれる姿、宝塚の中での評価が通用しない世界に飛び込んでゆかれる姿。それはとてもまぶしく、内にどんな強い覚悟が必要だったか考えると、涙なしでは見られないものでもありました。

私たちも、怖いけれど勇気を出して、ときには宝塚という安心で安全な場所から出ていかなくてはならないのかもしれません。宝塚とはまた別の幸せを手に入れるためには……。大丈夫です。つらいことがあっても、私たちには宝塚があります。いつでも観に行ける、心を慰めてくれる大好きなものがあるのです。夜中につらくなったら、『CONGA!!』のDVDをかけて、一緒に歌い踊ればいいのです。

「踊るなら選んだ相手と、踊りたいときに好きな音楽で」。はりねずみさんが選んだ相手と、踊りたいときに好きな音楽で踊れるその日が来ることを祈っています。もし、そんなにトントン拍子にうまくいかなかったとしても、誰かと人間関係を作ろうとすること、自分が苦手だったこと、でもしてみたいことをするのは、素晴らしいことですよ。

読んでいて、なんだか私もがんばってみようという気持ちになってきました。かわいらしく着飾ってデートをしたりしたいと思ったりもしました。男の人にときめく気持ちをたくさん持って、褒めて褒めて優しくして、それでいい気分になってくれたら嬉しい。相手の気持ちを聞けたら嬉しいし、自分の話ができたら嬉しい。そういうことの積み重ねの上に、「好き」というものは生まれてくるのかもしれません。私は恋愛下手なので、たいしたことが言えなくて申し訳ありませんが、「どうせ私なんて」「どうせ男なんて」と思わずに、素敵な展開があることを期待して、その期待に備えた行動をすることが、最初はやっぱり大事だと思うのです。私も、ヅカも欲しいけど、彼氏も欲しい。どうか一緒にがんばっていきましょう。



みなさまの愚痴を、雨宮まみが「穴の底」にてお待ちしております。長文大歓迎!
恋愛相手の愚痴も、職場環境にまつわる愚痴も、誰にも言えない愚痴も、「スポーツジムのおじさんの汗がキモイ…」みたいなしょうもない愚痴も、なんでもござれ。大なり小なり吐き出して気を楽にしませんか?
「どうしたらいいでしょう?」のような相談は受け付けておりません。ごめんなさい。


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雨宮まみ
雨宮まみ(あまみやまみ)
ライター。アダルト雑誌の編集を経て、フリーライターに。女性の自意識との葛藤や生きづらさなどについて幅広く執筆。女性性とうまくつきあえなかった頃を描いた自伝的エッセイ『女子をこじらせて』出版後、「こじらせ女子」がブームとなる。他の著書に対談集『だって、女子だもん!!』(ポット出版)、『ずっと独身でいるつもり?』(KKベストセラーズ)、『女の子よ銃を取れ』(平凡社)、『タカラヅカ・ハンドブック』
(新潮社)など。

「キレイになりたい!」と言えないあなたに。

『女の子よ銃を取れ』

他人の視線にビクビクしたくない、自分らしく堂々としていたい、かわいい、キレイと言われてみたい……そう思っていてもどうすればいいのかわからないし、「キレイ」への道が怖くてたまらない。
キラキラした「キレイになりたい」本を手に取ることすら怖いと感じるくらい、「キレイ」が重荷になっている人のための、自意識や他人の視線、自分の視線を解きほぐす本です。

雨宮さんより一言:
何をしても、何を買ってもうまくいかない、変われないしパッとしない……。そんな悩みは、本当は多くの人が持っています。それ以前に何をすれば、何を買えばいいのかもわからない人だってたくさんいます。この間まではわかっていたのに、急にわからなくなってしまった人も。そんなときに、自分を取り戻し、新しい自分を作り上げるヒントや、気持ちの持ち方の軸のようなものがあればいいなと思って書きました。落ち込んだときのおともにしていただけると嬉しいです。

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