2014.12.04 10:15

「大人になる=処女喪失が怖い」 雨宮まみの“穴の底でお待ちしています” 第13回

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穴の底でお待ちしています

誰にも言えない、けれど誰かに言いたい、そんな内緒の悩みやモヤモヤ、しょうもないグチからやりきれないつらさまで、穴を掘ってこっそり叫んでみたい気持ちを発散する、「感情の吹きだまり」……。そんな場所がこのコーナーです。あなたのやるせない気持ちを、安心してブチまけてみませんか? 雨宮まみが聞き手をつとめます。長文の投稿歓迎いたします。


(ろまん/女性/20代前半)
こんにちは、私は海外留学中の大学生です。 大人になるってなんでしょう。

現在22歳で、甲子園球児もほとんどの学生もみんな年下。社会的に十分大人なくせにそれでも私はまだ少女の自分を捨て切れません。若くいたいというか、女の子でいたいのです。ハロウィーンだったらお菓子を用意する側ではなく、トリックオアトリートといってお菓子を求めてまわる子どもでありたいのです。

社会に出て働いてみたいとは思うのですが、14歳のときから大人になりたくないと思いはじめ、誕生日には毎年また年を取ってしまったなぁと思っています。 私はかわいいもの、ひらひらレースの洋服が大好きだし、たまにロリィタ服も着ます。自分の部屋にはぬいぐるみがたくさんあるし、ディズニーやサンリオのキャラものがやめられません。バイトではありますが、欲しいもののために社会で働く経験をしてもなお、自分が大人だと認めたくありません。バイトの契約書にサインをしても、一人で海外留学にいっても、大人になりきれません。

30までに子どもは欲しいので、26か27で結婚したいと思っています。あと5年程度しかありませんが、それまでに家族から精神的に自立できる自信がありません。 約1年間の留学で、寮での一人暮らしなどを経てなにか変わるかと思いましたが、視野は広まったものの気持ちに大きな変化はなく、一生家族と今のまま幸せに暮らしていたいと思いました。 私の家は家族仲が大変良く、都内に一軒家を持ち小学校から私立に通えるくらいの経済力もあります。

大学に入った直後、2歳年上で私にとって初めての彼氏ができ、彼とはもう3年以上付き合っています。不器用ですが誠実で優しく私のことを大切にしてくれるし、彼となら家族になってもいいかなと思っていますが、大人になりたくないので結婚したくありません。

アメリカ人は日本人よりぐんと大人びているので、私にとってアメリカはたまに居心地が悪いです。アメリカ人だけでなく、同じ留学先の日本人学生でも、年齢は私より年下でもアメリカにかぶれて大人びている人たちと自分を比べると私はなんて幼稚なんだろうと思います。

私は自分の信念や意見をしっかり持ってはいますが、好きなものが子どもレベルなのです。 日本にいるときは親が子ども扱いしてくれていたし、私の親もディズニーやぬいぐるみが好きなので、子どもっぽいテイストが好きでも気にしたことはありませんでしたが、最近、このまま社会に出たらもしかして浮く?と思ってきました。最近では、本当は子どもっぽい服装や髪型が大好きなのに、大人っぽく見せるために前髪を伸ばし、スキニージーンズをはいています。 3月からは就活が始まりますが、大人っぽくしなければと思えば思うほど違和感があります。ちなみに志望業界はおもちゃメーカーです。

突然ですが私は処女です。処女喪失したとき、ロリィタ服やぬいぐるみなどのかわいいものが似合わなくなりそうで怖いのです。セックスするとなにか自分が変わる気がするし、それが私にとっていいことだと思えないのです。処女じゃないのに親から子ども扱いされるのも違う気がします。そもそも結婚するまで貞操を守りたいので、今の彼氏は待ってくれてますが、大人になる=処女喪失は少なからずあると思います。

大人になったら大好きなものにふさわしい自分でいられなくなる、好きなものに嫌われることほど怖いものはありません。友達と下ネタの話もするし、中学生の頃に自慰だって覚えたし、一瞬腐女子だったのでかなりアブノーマルなセックスへの知識も興味もあります。処女喪失がいろんな意味で怖いし、いざとなるとエロい自分が気持ち悪いのです。子どもは欲しいので結婚したらもちろんセックスするつもりではいます。

雨宮さんは私からするとすごく大人です。かっこいいです。自立してるしショートカットがよく似合うし、いろんな人と対等に話していて立派です。大人になりたいかというとなりたくないのですが、そんなことも言っていられません。なにを目指せばいいのかわかりません。もう22歳にもなって子ども扱いしてほしいなんておかしいかもしれませんが、反抗期もなく、大人になるタイミングを逃してしまったのかもしれません。一生このまま痛いおばさんとして年を取るのかなとも思います。

(※投稿内容を一部、読みやすいように編集させていただきました。)

今の子どもって、何を飲むんでしょうか。私、クリームソーダが好きなので、昭和の子どもの飲み物ですけどそれでいいですか? 合成着色料の緑がまぶしいですね。チェリーものせましょう。グラスを倒さないように気をつけて召し上がってください。

私が「大人になるのは嫌だなぁ」と思ったのは、住んでいた団地のフェンスの穴をくぐって近道をしていて「大きくなったらこの穴を抜けられなくなるのか」と思ったときと、生理が来て「これから何十年も毎月こんな目に遭うのか」と思ったときです。神様が三つの願いを叶えてくれると言ったら、そのうちのひとつは「生理をなくして下さい」にしようと思っていました。ちなみにもうひとつは「むだ毛をなくして下さい」で、その二つは自分の中で決定でした。まさか永久脱毛なんていうものがこの世にあるなんて……。あのとき神様がやって来なくて本当に良かったです。

そのように、子ども時代と決別したくなくてもしなければならない、どうしても逆らえないものがこの世にあるんだと気づいた瞬間の気持ちには覚えがあります。もっと大きくなってからは、社会に出たら責任が重くて大変なんだ、とにかく厳しい世界だと教えられてきましたから、社会になんか出たくないし、バイトですら責任が重いのに社会人なんてまっぴらごめんだと思っていました。どうしたら自立した大人なんかになれるのだろう、と不思議に思っていましたねぇ。

ろまんさんの愚痴は、すごく単純なところと、複雑なところが交錯していますよね。例えば、子どもっぽい服装や髪型が好きで、それは社会に出たら浮くのでは?と心配されているところ、そして私に対して「雨宮さんは私からするとすごく大人です。かっこいいです。自立してるしショートカットがよく似合うし、いろんな人と対等に話していて立派です」と書かれているところは、子どもっぽい=会社にふさわしくない、ショートカット=キャリアウーマンっぽい、みたいな、かなり単純化されたイメージに基づいて書かれている箇所です。子どもっぽいもの、ディズニーやサンリオが好きな大人はたくさんいますし、そういったもののコレクターといえば、圧倒的に経済力のある大人が主流でしょう。ショートカット=自立している大人、というのは、政治家の女性などのイメージでしょうか。まぁ、私が一日中、着る毛布に包まれたダメな生活をしていることなど、クロネコヤマトの人以外は知らないですからね……。このあたりのことは、想像による決めつけで語られている部分が多く、単純でありながら漠然としています。

逆に、セックスに対する不安は非常に複雑でありながら、ビビットです。することで「大好きな(かわいい)ものにふさわしい自分ではいられなくなる」「いざとなるとエロい自分が気持ち悪い」「子どもは欲しいので結婚したらもちろんセックスするつもりではいます」。「いざとなるとエロい自分が気持ち悪い」、これほど処女の不安を的確に表した言葉にはなかなかお目にかかれません。このフレーズは、傷口のようです。

整理してゆくと、ろまんさんがお悩みになっていることは、「自立せず、庇護される子どもでありたい」ということ、「加齢により否応なく大人になり、かわいいものが似合わなくなるのが嫌だ」ということ、「性的なことにより大人の女の面が出てくるのが、かわいくなくて嫌だ」ということ、そして、書かれてはいませんが最も強いのは「常識的な生き方をしたい」ということだと思います。人並みに就職し、結婚し、子どもも欲しい。そこから外れようという考えは、ろまんさんの文章からは感じ取れません。「子ども」対「大人」の概念が、「処女」対「非処女」、「かわいくて庇護される対象」対「自立していてかっこいい」というように、かなり単純化されていることと、それは無縁なことではないと思います。

「腐女子だったのでかなりアブノーマルなセックスへの知識も興味もあります」とありますが、腐女子というのはボーイズラブが好きな女性のことですよね。アブノーマルなセックスというのは、男性同士のセックスのことなのか、アナルセックスのことなのか、腐女子の性的嗜好のことなのかわかりませんが、いずれにせよこれを「アブノーマル」と呼ぶのは、私はどうかと思います。はっきり言うと、差別的だと思います。ろまんさんの生きている「常識的な世界」がどのような世界なのか、端的に見えてくる表現だと思いました。「大多数の普通」を外れない世界なのでしょう。

私は、ろまんさんの住む世界の常識から言えば、まっとうな道を外れて生きる者です。この愚痴を読んで最初に思ったのは、なぜ私に? ということでした。私は、少女性を保持したまま大人になっているわけでも、ろまんさんが将来の道として考えているような、就職し結婚し子どもを持った大人でもありません。ろまんさんの理想とひとつも合わない私に、なぜ? と思ったのです。

時間を止めることはできません。両親の庇護下で生きてゆくことはおそらく可能でしょうし、かわいいものを愛し続けることは可能です。大人っぽい服装をすることに違和感があるのなら、好きな服を着ていい仕事を選ぶことは可能です。セックスも結婚もしないで生きることは可能です。いつまでも若い年齢で、無理なくかわいいものが似合う、かわいいものを身につけていても痛いと言われない「社会的立場」であることは不可能です。そして、ろまんさんが語られていることの多くは、可能か不可能かではなく、社会的な立場についてのことなのです。

「痛いおばさん」は、社会的な立場であり、周囲からの評価です。痛いと思われることを知りながら、そのような服装や美学を貫く人の内面は自立していると私は思います。趣味嗜好が子ども好みであるとか、かわいいものばかりだとか、そういうことは関係がありません。「なんとなく仕事ができそうに見えるから」とスーツを着て、ショートカットにする人の内面は、幼稚です。自分の常識を誰かに預けて生きる人は、自立していないのです。

そういう精神論を聞きたいわけではないですよね。けれど、もう、何かを選ぶことからは逃れられないのです。ろまんさんの言う「大人になりたくない」は、おそらく「選びたくない」ということなのだろう、と思います。どの選択肢もろまんさんを今のままではいさせてくれないのですから、選びたくない選択肢しか目の前にない状態なのでしょう。

何を選ぶのがベストなのかというアドバイスは誰にもできません。私がろまんさんに言いたいことは、もっとたくさんの大人、もっとたくさんの人物像や価値観に触れてほしいということです。ろまんさんが「こうしなければならない」「こうするのが普通だ」と思っていることを、はなから捨てて生きている人の姿を見てください。処女のままで生きる人、子どもっぽい好みを貫き通す人、仕事をしていない人……。ろまんさんの考える常識や普通から外れている人を見てください。ろまんさんのなりたくない「大人」を、生き生きと楽しそうに生きている人が、なぜそのように生きていられるのかその内面を知ろうとしてみてください。本でも、映画でも、音楽でも舞台でも何でもいいです。

ろまんさんが私に愚痴を言ってくれたのは、偶然このサイトを見てくれたからかもしれませんが、私が「ちゃんとしていない」大人だったからなのではないか、と少し思うんです。そして、ろまんさんが薄々、「こういう道を選んでおけば安心な、普通の人生」と、自分の欲望の間に溝を感じているからではないかとも。自分の欲望に正直になると、周りの常識から外れて孤独を味わうことになるだろうということを、なんとなく知っておられるのではないのかとも思います。

子どもが欲しい、セックスは嫌だ、大人になりたくない、就職はしたい……。矛盾した思いが書かれていますが、大人になるということは、若さを失い、みずみずしさを失い、みじめに老いていくことではありません。子どもは純粋で、大人は醜く、汚く、不純なもの、ではないのです。少なくとも私は本気でそう思っています。子どもが自由で、大人が不自由なのではなく、大人っぽい態度や服装を強いられるのが子どもだと思っています。二項対立の価値観や、固定観念の枠からはみ出るものが、世の中にはたくさんあります。何かを選び取り、不要なものを捨てていき、何かを奪われ、何かを獲得しながら純度を増してゆくのが、私の思う大人です。ろまんさんが、自分の中の少女を生かしたまま大人になることは可能です。

私もろまんさんと同じような気持ちを抱え、年齢を重ねることに付随するなにもかもが嫌だと思うことがありました。いつそれが変わったのかというと、会社員という立場を捨てたときと、「人からこんな人間だと思われたくない」「こういう人間だと思われたい」というこだわりを一度、一瞬ですが捨てられたときです。自分にはまだいろんな可能性がある、自分には何でもできる、という地点から、できないことを知り、受け入れたくなかった自分の像を受け入れた瞬間だったと思います。そう言うとすごい苦痛があるように見えるでしょうが、それは逆で、ずっと抱え続けた苦痛が消えた瞬間でした。そうありたい自分と、実際にこうである自分とのギャップを解消できたとき、生きていくことはほんの少し、楽になるのではないかと思います。


みなさまの愚痴を、雨宮まみが「穴の底」にてお待ちしております。長文大歓迎!
恋愛相手の愚痴も、職場環境にまつわる愚痴も、誰にも言えない愚痴も、「スポーツジムのおじさんの汗がキモイ…」みたいなしょうもない愚痴も、なんでもござれ。大なり小なり吐き出して気を楽にしませんか?
「どうしたらいいでしょう?」のような相談は受け付けておりません。ごめんなさい。


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雨宮まみ
雨宮まみ(あまみやまみ)
ライター。アダルト雑誌の編集を経て、フリーライターに。女性の自意識との葛藤や生きづらさなどについて幅広く執筆。女性性とうまくつきあえなかった頃を描いた自伝的エッセイ『女子をこじらせて』出版後、「こじらせ女子」がブームとなる。他の著書に対談集『だって、女子だもん!!』(ポット出版)、『ずっと独身でいるつもり?』(KKベストセラーズ)、『女の子よ銃を取れ』(平凡社)、『タカラヅカ・ハンドブック』
(新潮社)など。

「キレイになりたい!」と言えないあなたに。

『女の子よ銃を取れ』

他人の視線にビクビクしたくない、自分らしく堂々としていたい、かわいい、キレイと言われてみたい……そう思っていてもどうすればいいのかわからないし、「キレイ」への道が怖くてたまらない。
キラキラした「キレイになりたい」本を手に取ることすら怖いと感じるくらい、「キレイ」が重荷になっている人のための、自意識や他人の視線、自分の視線を解きほぐす本です。

雨宮さんより一言:
何をしても、何を買ってもうまくいかない、変われないしパッとしない……。そんな悩みは、本当は多くの人が持っています。それ以前に何をすれば、何を買えばいいのかもわからない人だってたくさんいます。この間まではわかっていたのに、急にわからなくなってしまった人も。そんなときに、自分を取り戻し、新しい自分を作り上げるヒントや、気持ちの持ち方の軸のようなものがあればいいなと思って書きました。落ち込んだときのおともにしていただけると嬉しいです。

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