2014.08.21

「小沢健二似の美しい元彼」 雨宮まみの“穴の底でお待ちしています” 第7回

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穴の底でお待ちしています

誰にも言えない、けれど誰かに言いたい、そんな内緒の悩みやモヤモヤ、しょうもないグチからやりきれないつらさまで、穴を掘ってこっそり叫んでみたい気持ちを発散する、「感情の吹きだまり」……。そんな場所がこのコーナーです。あなたのやるせない気持ちを、安心してブチまけてみませんか? 雨宮まみが聞き手をつとめます。長文の投稿歓迎いたします。

(借りてきたね子/女性/20代前半)
雨宮さんこんばんは。大学生の女です。 昨年の秋、二年間付き合っていた男性と別れました。その相手は、顔は小沢健二に似ていて、背は高くないけれど細身で、清潔な身なりをしていて、髪の毛がきれいな黒でまっすぐでさらさらでつやつやしていて、私を撫でるときの繊細な手つきや、笑ったときの口元の皺が好きでした。でもそれ以外のところはあまり好きではなかったです。普段は優しいですがときどきヒステリーを起こすし、怒らせるととても面倒で、常に自分が絶対正しいと思っていて、手を上げられたことは一度も無いですが、言葉の暴力を何度も受けました。

 私自身は、「モラハラを受けている」という自覚は無くて、二年間付き合い続けました。交際をはじめて最初のあたりで私が、彼の言動に追いつめられ精神的に不安定になり、もう無理だと思って別れを切り出したときに、「どうしてそうやって僕を簡単に棄てるの?」と言われ、自分の都合でこの人を手放すことは絶対に許されないのだ、と思い知りました。そのあと、自分から別れたいと言ったことは一度もありません。 相手からは半年おきくらいに「もう付き合っていけない」と言われ、そのたびに一週間程度絶縁(メールも電話もしない)をし、「やっぱり君のことが好きだから別れたくない」と言われ、私も素直にそれを受け入れ、仲直りのセックスをし、何事もなかったかのように復縁を繰り返しました。

 別れるたびに私は深く落ち込んで何も手につかなくなり、友達や家族にとても心配をかけ、その過程で心療内科に通って安定剤を飲むようになりました。 激しい喧嘩をし、でも仲直りして、セックスして、それでお互いをもっと理解出来るようになって愛が深まるとか、そういうことではなかったです。むしろ、復縁するたびに絶望しか持てなくなったし、だんだん「この人を怒らせたらどうしよう」とびくびくと怯えて、言動にとても気を遣うようになりました。うまく笑えなくなりました。自分の顔はいつの間にか、暗くて影のある、別人のようなものになっていきました。それを人は「大人になったね、落ち着いたね」と言ってくれたりもしましたが、こんな風になるならずっと、子どものままでいたかった。

 彼の、美しい部分がとても好きでした。見た目のことだけでなく、繊細でこわれそうだけれどぎりぎりのところでなんとか自分を保っている、そんな姿が好きだったのです。裏の部分は私だけにしか見せていないものだと思ったし、それを見せてもらえることが幸福でした。私ははっきり言って不器量で、性格もおどおどしていて気が利かなくて暗いので、女性にも男性にもあまり好かれません。それでも、私と一緒に居たいと思ってくれる相手を、(たとえモラハラがあっても)手放してしまうなんてできませんでした。

 長くなったのでその彼との結論だけ言うと、彼はいつの間にか大学の後輩の女の子と浮気をしていたらしく、彼女とはまだ出会って一ヶ月も経たないけれど、「あの子を守ってあげなくちゃいけないから」と言って、私とは別れたい、と告げられました。とてもとてもつらくてまた落ち込んで泣いたり、家から出られなくなったりしましたが、私は彼の言うことを受け入れて、別れました。

 新しい彼女とは、うまく行っているらしいです。相手の女の子はとても背が高くモデルみたいなスタイルで水原希子ちゃんみたいな雰囲気です。ああ、あの子なら、きっと連れて歩いていても恥ずかしくないし、むしろ誇らしい気持ちになるだろう、と素直に思います。

 そんな思いを抱えながら、半年ほどぼーっとして過ごしていたのですが、最近、私にも好きな相手ができました。少し年上の男の子で、背が高くて、いつもすごくおしゃれで、たぶん自分が美しいものだということをよく知っているみたいで、とても堂々としています。でも性格はちょっととぼけてて、天然っていうか、素直で優しくて、前の彼氏とは全然違うおだやかな人です。 この人も、皮を一枚剥ぐと、どろどろした、真っ黒な、汚くて誰にも見せられないような感情を持っているのかな。そんなことを考えるとすごくどきどきします。

 でも、そういうことを友達に話すと、「お前は結局、男の顔しか見ていない」とか、「見た目で相手を選ぶからいつも失敗するんだ」などと言われてしまいます。 美しいものにさわったり、撫でたり、唇をつけたりしたい。でもそういう気持ちを持っていることを、誰にも言えません。それに、精神的にぐちゃぐちゃになっても、一度愛した相手を自分から手放したりできません。醜くて何もいいところが無い私のことを、一瞬でも好きになってくれたのに。その事実だけを信じたいのです。 結婚するとか親に紹介するとかそんなことはどうでもいい。好きな人と、ふたりだけの世界がほしい。でも結局、こんな風に願っても、この先誰ともうまく行くはずがないとどこかで悟ってしまったので、彼氏も夫も作らないと決めました。決めた、というか諦めました。 全然美しくなくて、どきどきしない相手となら、もしかしたらモラハラも喧嘩もなく、私が傷つくことがないままで付き合っていけるかもしれない。でも、そんなの全然、ほしくないのです。

(※投稿内容を一部、読みやすいように編集させていただきました。)

「すみません、これ、小説にしていいですか?」と聞きたくなるほどの、すばらしいディテールの書き込みぶりに惚れ惚れしました。「小沢健二似」でグイッと引き込まれ、そこからは「あんな感じのルックスでこんなこと言われたら『私のほうが間違ってる』って思っちゃうよなぁ……思っちゃうよねぇ……」の共感の嵐。そして現われる新彼女は、いま最も元彼の新彼女として殺傷力が高いと思われる、水原希子似!(同性から見て、嫌える要素や憎める要素が一切ない)そこにダメ押しで来る「あの子を守ってあげなくちゃいけないから」……! きえええええー!(悲鳴) ちょっと落ち着くために私がまず一杯飲ませていただきます。強い酒をショットで……。

 まず、言いたいことは「そんな恋愛から、よく生還されましたね」です。たぶん、これを読んだ全員が「そんな男、ひどい目に遭えばいい!」と思ったと想像いたしますが、そういう恨み系の執着をされていないところも尊敬いたします。まぁ、「守ってあげなくちゃいけない」っていう時点で、そこそこ振り回されてるんだろうなー、と推察いたしますので、振り回されてボロボロになる側の気持ちを、元彼もいまごろダシの効いたお吸い物を飲むような感じでじっくり味わっておられるといいなーと思います。

 しかし、何より響いたのは最後の段落です。「美しい人が好きで、触れたい」「結婚するとか親に紹介するとかはどうでもいい」「好きな人と、ふたりだけの世界がほしい」。でも「この先誰ともうまく行くはずがないとどこかで悟ってしまったので、彼氏も夫も作らないと決めました。決めた、というか諦めました」。読んでて、こみあげるものがありました。聞く側なのに取り乱しちゃってすみませんが、最近、本当にこういうことをよく考えるんです。これに続く、「全然美しくなくて、どきどきしない相手となら、もしかしたらモラハラも喧嘩もなく、私が傷つくことがないままで付き合っていけるかもしれない」も、私の心のやらかい場所(from『夜空のムコウ』)をザクザク刺激してきます。

 借りてきたね子さんは、自分の欲しいものをよくわかってらっしゃいます。そして、「美しい人に触れられる」なら、他の面は多少ひどくてもいい、という覚悟もしてらっしゃいますし、「美しくて性格もまともな人と、相思相愛になって結婚する」みたいな都合のいい話はあるわけない、と悟っておられます。はっきりしていますよね。明晰です。ただ、ここに書き込んでくれたということは、そうわかっていても、それが楽しい状態ではない、ということなのかなと思います。

 幸せって、いったい何なんでしょうね。お友達は「見た目で相手を選ぶからいつも失敗するんだ」とおっしゃるそうですが、失敗ってなんなんでしょうか。借りてきたね子さんにとって、「美しい人に触れられた」ことは「成功」ですよね。その代償が大きかっただけで。周囲の人は、借りてきたね子さんが傷ついているのを見て「こうすれば安定できるのに」「こうすれば傷つかないのに」ともどかしく思ってらっしゃるのでしょうね。でも、そうして周囲の人が提案してくれる「幸せ」は、借りてきたね子さんにとっての「幸せ」とは、ぜんぜん食い違っているわけです。

 私は最近、恋愛ということを、もう諦めたいと思うことがあります。自分が心の底から傷つくのは恋愛だけですし、人生で本当にうまくいかないことも恋愛だけです。恋愛でうまくいくことを望まなければ、自分の人生はそれなりに幸せです。でも「恋愛を諦めたい」と思うと、涙が出ます。だから、「諦めたくない」というのが本心なのだと思います。そして、諦めないでいるためには、これからもまた、これまで以上に傷つく可能性もあって、それがとても怖いのだと。

 たぶん誰かに話せば、「まだ諦める年齢じゃない」とか、「人生何があるかわからないんだから、幸せな恋愛があるかもしれないよ」とか言ってもらえるかもしれません。でも、いまの私にとって、そうした希望は毒に近いです。期待して、また同じ目に遭って、立ち直れるかどうかを考えると、ぞっとします。安定した関係を望んでいない、なんてことはありません。でも、「この人とうまくいかないのなら、もう何もいらない」という気持ちもまた、真実なんです。勝手に想い続けて、もうそれだけでいいんじゃないか、と思ったりもします。

 人の心は複雑で、なにかひとつが答えだと言えないことがあります。私が借りてきたね子さんの文章から強く感じるのは、自分の欲望から目をそらしたくない、目をそらすことで、自分を歪ませたくない、という強い意志です。でも、それを追い求めることで、過去に経験したのと同じかそれ以上の傷を負うことを予想されているのも感じます。

 私は恋愛を諦めたいけど、「諦めよう! よし、すっきりした!」とは思えません。私の「諦めたい」は自己防衛で、心から望んでいることではないからです。そして思うことは、こんなことは、決めてしまわなくていいんだ、ということです。つらいときに一時閉鎖するのはいいし、ああ、これはまずいパターンだな、というときにバーンと心のシャッターを閉じるのもいいと思います。でも、「この先誰ともうまく行くはずがない」「彼氏も夫も諦める」ということは、決めなくていいと思います。希望を持つことがつらいから、そう決めたい気持ちはわかりますが、いま好きな人がいらっしゃるのなら、その人に対する希望に自分で限界を作らないでほしいんです。

 「自分みたいな人間が、この人に触れられるだけで満足」というのは、最低ラインの満足ですよね。もしも最高を望めるのなら、何を望みますか? 私なら、つきあいたいですし、好かれたいです。そう思うことがどんなにつらいか、その希望を持つことがどんなにしんどいかもわかります。わかるけどやめないでほしいんです。最低限を望んでいたら、最低限のものしか手に入らないんです。自分に自信がなくて、美しい相手とはつりあわないと思っていても、気持ちのどこかにプライドを持って、対等な気持ちで主張しないと、恋愛って成立しないんです。

 私は最低限を望んで、30歳前後は恋愛面では最低の時期を送りました。いまも、申し上げた通りうまくできてはいませんが、最低限を望むことだけはやめました。つきあえなくてもいいからただ会ってほしいと上下関係ができるようなことを言ったり、たとえ自分が年上だったり、社会的な地位が釣り合わなかったり、美醜の面で大きな差があったりしても、「自分が下だから、多くを望んではいけない」と思うのはやめました。美女だけが美男とつきあえるわけではないし、才能のある人だけが才能のある相手とつきあえるわけでもない、と、自分の思い込みを解体しようとするようにもなりました。やめよう、と思って簡単にやめられるものではないので、劣等感や引け目を感じることはあります。でも、それを表に出すのをやめよう、としています。私の思う「幸せ」は、好きな相手との両思いです。どうせ傷つくのなら、最高の幸せを求めたいのです。

 ご自分の本当の気持ちが、100%「諦める」なら、それでいいと思います。でも、揺れているうちは、ご自分の正直な気持ちを見つめることをやめないでほしいんです。借りてきたね子さんには、それができるはずです。人は、自分の意志で変えられる部分があります。どうかご自分のことを、「傷つく恋愛しかできない」人間だと思い込まないでください。過去の私のような、卑屈な恋愛をしないでください。すればするほど、本当にプライドがすり減って、自信を失います。好きな相手に「好きだ」と言ってふられることで傷つくのと、自分が下の位置にしかいられない恋愛ですり減るのは全然違います。本当にすべきことは、「自分に都合の良い希望を求めるのをやめること」ではなくて、「関係を切られることを恐れるあまり、都合の良い存在になってしまうこと」ではないでしょうか。

 何が幸せかなんて、何が正しい恋愛かなんて、私にもわかりません。でも、借りてきたね子さんにとっての「最高の幸せ」について、一度考えてほしいと思いますし、それを求めることは、決して分不相応なことなんかではない、ということだけは、申し上げておきたいです。


みなさまの愚痴を、雨宮まみが「穴の底」にてお待ちしております。長文大歓迎!
恋愛相手の愚痴も、職場環境にまつわる愚痴も、誰にも言えない愚痴も、「スポーツジムのおじさんの汗がキモイ…」みたいなしょうもない愚痴も、なんでもござれ。大なり小なり吐き出して気を楽にしませんか?
「どうしたらいいでしょう?」のような相談は受け付けておりません。ごめんなさい。


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雨宮まみ
雨宮まみ(あまみやまみ)
ライター。アダルト雑誌の編集を経て、フリーライターに。女性の自意識との葛藤や生きづらさなどについて幅広く執筆。女性性とうまくつきあえなかった頃を描いた自伝的エッセイ『女子をこじらせて』出版後、「こじらせ女子」がブームとなる。他の著書に対談集『だって、女子だもん!!』(ポット出版)、『ずっと独身でいるつもり?』(KKベストセラーズ)、『女の子よ銃を取れ』(平凡社)、『タカラヅカ・ハンドブック』
(新潮社)など。

「キレイになりたい!」と言えないあなたに。

『女の子よ銃を取れ』

他人の視線にビクビクしたくない、自分らしく堂々としていたい、かわいい、キレイと言われてみたい……そう思っていてもどうすればいいのかわからないし、「キレイ」への道が怖くてたまらない。
キラキラした「キレイになりたい」本を手に取ることすら怖いと感じるくらい、「キレイ」が重荷になっている人のための、自意識や他人の視線、自分の視線を解きほぐす本です。

雨宮さんより一言:
何をしても、何を買ってもうまくいかない、変われないしパッとしない……。そんな悩みは、本当は多くの人が持っています。それ以前に何をすれば、何を買えばいいのかもわからない人だってたくさんいます。この間まではわかっていたのに、急にわからなくなってしまった人も。そんなときに、自分を取り戻し、新しい自分を作り上げるヒントや、気持ちの持ち方の軸のようなものがあればいいなと思って書きました。落ち込んだときのおともにしていただけると嬉しいです。

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