「スキャンダル」 恋愛短編小説『恋百色』 第25話

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恋百色

誰かが誰かを好きになって、ちょっぴり涙する。そしてピョンとはずむ。いつもより少しだけ高く。
誰かがあなただけに打ち明ける、失恋ショートストーリー

第1・第3曜日更新

作・みよろり

第25話「スキャンダル」

 「こんな子がアイドルになれるなら、私だってなれるじゃん」

 電車の中吊り広告を見上げていた女子高生が、そうつぶやいた。広告には、アイドルの小国久子が写っている。久子を見上げながら、その実、見下している女子高生は、いたって平凡で、とりたてて可愛いとは言えない。私は、久子に同情する。アイドルって大変ね。今頃くしゃみでもしてなきゃいいけど。ま、そんなことを心配すれば、久子は一日中くしゃみの連続で窒息死しちゃうほど、人気絶頂だ。

 久子とは、地元の高校が同じだった。どういうきっかけで親しくなったのかは覚えていない。でも、放課後はよく一緒に遊んだ。駅前のイオンでクレープを食べたり、イオンでプリクラを撮ったり、イオンでお揃いのシューズを買ったり。

 ところが高校2年の夏、親戚の子と東京見物に出かけた久子は、渋谷でスカウトされた。そして間もなく上京してアイドルになった。

 本当のところは、スカウトされたんじゃなくて、自分からオーディションを受けに行ったのだと私は思っている。久子はずっと芸能界に憧れていたから。

 事実を言ってくれればいいのに、親友の私にさえ「スカウトされちゃった」だって。久子って、そういうちょっとズルいところがある。

 それからしばらく会う機会がなかったけれど、おととし、私が大学進学で東京に出たのを境に、また時々会うようになった。その頃はまだ、久子はいつだって暇にしていた。テレビにも雑誌にも、もちろん人々の噂にも、久子の名前が上がることはなかった。それが、去年の春、久子はいっきにブレイクした。生放送の歌番組で、三十数名ものメンバーが一同に歌って踊る中、久子は大胆に、素っ転んでしまった。しかも二度も。

 芸能界って、何が幸いするか分からない。こうして日本一のドジっ娘アイドルは誕生した。

 そして、私が久子から奇妙なお願いをされるようになったのも、彼女が世間から注目を集めるようになった時期と同じ頃。

「アキちゃん、明日って大学あるよね? お昼に少し部屋を貸して欲しいんだけど」

 私がいない間に、部屋を貸して欲しいってのは、つまり、男との密会でしかあり得ない。絶対に。

 普通だったら自分の部屋が逢い引きに使われるなんて気持ち悪いし、断っているところだけど、久子は今や国民的アイドル。私は、自分の部屋の中で、日本で最も価値のあるスキャンダルが行われることに興奮し、部屋を貸すことに同意した。

「親友だもん、もちろん、いいよ」

 久子は時々私の部屋を利用するようになった。そんな時、私は学校の授業が全く身に入らない。久子はどんな男と会ってるんだろうかと、気になってしょうがなかった。

 ある日、私はまた久子から連絡を受けた。

「ごめん、今日は授業ないから、部屋でレポートまとめてるんだ……」「それなら、私の部屋で、続きしてくれない? ごめんね、ありがとう」

 正直、今思えば、久子の部屋になんていくんじゃなかったと後悔している。私は、彼女の部屋の豪華さに驚いた。そして嫉妬した。

 真っ白なタワーマンションの7階。かなり広めの1LDK。リビングには大型テレビと、イタリア製の赤い革のソファー。クローゼットの中にはびっしりとブランドものの服やバッグが並んでいた。

「久子がアイドルになれるなら、私だってなれるのに」

 同い歳で出身地も同じ、見た目だって差があるわけじゃない。いや、むしろ私のほうがモテた。

 みんなからチヤホヤされ、人気絶頂の中にいるのに、その上、男まで手にしているなんて、なんだかやっぱり久子ってズルい。

 一週間後、久子のスキャンダルが写真週刊誌にスクープされた。私は自分の部屋の住所と、スキャンダルの内容をメールにしたためて、久子の部屋から編集部宛に送信したのだ。

 世間はそのスクープに驚き、傷ついたりした。ショックのあまり久子に脅迫状を送りつける者まで出る始末。私だって、自分のしてしまった事に、じわじわとショックを受けていた。罪の意識から週刊誌にも目を通すことができなかった。

 だけど、噂ってのは、遠ざけようとしたって、必ず耳や目に入って来るもの。

「久子ちゃんの相手、あんたと同じ高校の津山くんだったみたいよ」

 私は母からのメールを読んで、頭がクラクラとした。津山くんは、私が高校の頃ずっと好きだった人だから。

 私は初めて週刊誌をめくった。久子と、目線の入った津山くんが、楽しそうに私の部屋のドアの前で佇んでいた。

〈第25話「スキャンダル」おわり〉

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次回予告
第26回「恋は突然に」(最終回) 8月20日(水)更新

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みよろり
関西出身、牡牛座、AB型。広告代理店、出版社を経て、フリーライターに。世間の幸と不幸を吸収し、ゆるりと執筆中。

 

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