「彼氏の元カノに勝てないのかと思うとつらいです」雨宮まみの“穴の底でお待ちしています” 第37回

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穴の底でお待ちしています

誰にも言えない、けれど誰かに言いたい、そんな内緒の悩みやモヤモヤ、しょうもないグチからやりきれないつらさまで、穴を掘ってこっそり叫んでみたい気持ちを発散する、「感情の吹きだまり」……。そんな場所がこのコーナーです。あなたのやるせない気持ちを、安心してブチまけてみませんか? 雨宮まみが聞き手をつとめます。長文の投稿歓迎いたします。

(みどり/10代/女性)

雨宮さんこんにちは。私は19歳の女子大生です。私には3つ上の彼氏がいます。
ある日彼に「お前の顔はタイプじゃないけど一目惚れだった元カノと同じくらい長く続きそうで不思議だ」と悪気なく言われました。私はその言葉が悔しく、私よりきれいな彼女なのか確かめたくなり、彼のツイッターを漁っていました。そんな中リプライで元カノと思える人との会話が見えたので飛んでみると鍵アカウントだったので、私は彼氏のパスワードを予測してアカウントにログインし、元カノのツイッターも漁りました。

彼女の顔はたいしてかわいくなく、50点くらいのルックスでした。目はしじみのようで、鼻も団子鼻でした。写真のほとんどは顔を半分隠したものばかりでした。
正直私は誰にでもかわいい、美人と言われるタイプです。友達にも元カノの写真を見せると「性格が良かったんだよ」とか「全然レベル違うから気にすることなくね?」などと言って、私の悩みを理解してくれません。それから私は取り憑かれたように元カノを調べあげ、交友関係を全部把握し、Instagram、フェイスブック等も特定しました。元カノはあまり写真を上げる人ではありませんでしたが、見つけられた限りの彼女の顔写真をスクリーンショットしました。

冷静に顔だけ見れば私のほうがかわいくてきれいだと思います。でも、彼氏がその子には一目惚れしたけど私のことは別に最初は何とも思わなかったし、現在も私にはかわいいと言わないのに元カノはかわいかったとしみじみ言われるとどうしたら良いのかわかりません。

私は元カノのことを異常に気にしてしまい自信が持てません。きれいでもかわいくても、ちょいブスの愛想のいい子に勝てないのかと思うとつらいです。どうしたらいいですか?

(※投稿内容を一部、読みやすいように編集させていただきました。)

いやー、穴の底にふさわしいお話をどうもありがとうございます。このドロドロした気分にふさわしいドロドロした飲み物でもお出ししましょうか。ベリーメインのチアシード入りスムージーとか。あ、チアシードあわてて飲むとむせがちなので気をつけてくださいね。

たぶん、周囲の人がおっしゃっていることは事実で、顔はみどりさんのほうがかわいいのでしょう。でも、ここから大事な話をします。女性の間でも「あの人イケメンだよね」「顔いいよね」と言うときに、そこに必ずしも好意的なニュアンスだけがあるかというと、そうでもない、ということがありませんか? 「イケメンなんだけどね……」「顔はいいんだけどね……」みたいなニュアンスで、それらの言葉が発されていることもありますよね。類似的な言葉として「いい人なんだけどね」などもあります。

もちろん、みどりさんが顔以外の部分で、彼氏の元カノに劣っているかというと、そうとも言えません。ただ、みどりさんの彼氏の中では、元カノの存在が「一目惚れするほどタイプだった」というだけのことです。きれいであれば、かわいければ一目惚れするかというと、そうじゃないんです。単に彼の好みはそっちだったんでしょうし、「でもお前とは長く続きそうで不思議だ」というのは、彼としては愛情表現のつもりだったのでしょう。まぁ、まずい言い方をしたものだなぁと思いますけどね……。

みどりさんが気にされているのは、本当は顔のことじゃなくて「そこまで彼が言うほどの魅力が元カノのどこにあったのか?」ということと、「それを自分は超えられているのか?」ということなのではないかと思います。
そして、みどりさんが経験されているようなことは、今の時代、多くの人が経験されていることだとも思います。SNSで追ってしまったり、どんな人物なのか知ろうとしたり……。鍵アカウントをパスワード当てて読んじゃうのはもはやハッカー級のテクになってしまいますが、そこまでしなくてもけっこう情報って得られちゃう場合もありますよね……。

私は以前、好きだった人がいました。彼の好む女性のタイプもわかっていて、いわゆる良妻賢母タイプで、男を立てつつ、彼の友達とある程度仲良くできる社交性もあり、美人、とはっきりしていました。私は良妻賢母タイプではないし、いろいろ条件不適合なのはわかっていましたが、好かれたいあまり作ったことのないお弁当を作ったり、なるべく控えめに見えるようにしたり、いろいろ「好かれる努力」みたいなことをしていました。
しかし、それでどうにかなったかというとどうにもならず、彼はあっさり他の女性と結婚しました。自分がふられたような状態になってからは、もうつらいのでSNS関係はすべてブロックしていたのですが、見えてしまうんですよね、友達関係からのシェアで……。彼はまさに自分の理想の女性を見つけ、結婚したようで、周囲もそれを祝福していました。

さすがにだいぶ時間が経っていたので、そこまで落ち込むことはありませんでしたが、私は彼女の顔を直視することができませんでした。自分と比べれば必ず落ち込んでしまうとわかっていたからです。自分よりきれいであればそれだけで落ち込むだろうし、きれいでないと思ったら、きっと彼の心を掴めるほど、素晴らしい内面を持った人なのだろうと思って落ち込んだと思います。正直、絶対に会いたくありません。比較して落ち込むのは目に見えているからです。
私がどんなに「あなたはすごい」と言っても与えられなかった自信を、彼女は彼に与えたのだし、彼の人生は目に見えて変わりました。私にはそれができなかった。
それは、見た目が悪いとか、内面が良くないとかだけの問題じゃないとは思います。タイミングもあっただろうし、相性もあっただろうし、合わなかったのだ、と今は思うようにもなっています。けれど、そう思えるようになるまでは、時間がかかりました。

恋愛をするたびに、自分は彼にとって、本当に良い相手なのか、ちゃんと彼を愛せているか、愛されているか、噛み合っているのかどうか、いろんなことが気になります。街を歩けば、自分よりかわいくて性格の良さそうな子なんて、もう、いっぱいいます。なんでその中で私なんだろう? と思うとわけがわからなくなります。

結論から言うと、そんなことを考えても仕方がないんですよね。周りや元カノを気にしていてもしょうがないんです。しょうがないというか、そういうことを気にすればするほど、変になっていくんです。彼に対して「本当は元カノのほうが好みだったくせに」という恨み節みたいな気持ちや不信感も芽生えてくるし、元カノの情報を入れてしまうことで「本当はこういう女の子が好みなのかも」と思ってしまい、自分らしいふるまいができなくなっていったり……。そうなっていくと、彼が好きなみどりさんの良さまで消えていくおそれもあります。

「かわいい」という言葉は、本当に難しいものですが、好きな男の人の前で、好かれている安心感を持ってリラックスしている状態の女性は、本当にかわいいと私は思います。それは、彼氏にしか見ることのできないみどりさんの「かわいさ」です。顔とかじゃないんです。変な情報に惑わされたり、他の人と自分を比べて、今のみどりさんにしか見せることのできない「かわいさ」を損なわないでください。それを一番大事にしてください。本当に、少しでも彼に疑いを持ったり、彼に対して気持ちがなくなったりしたら、そのかわいさって一切分泌されなくなりますからね! 恋愛って本当に、不思議なものです。どうか今の彼との関係を第一に考えて、それを大事にしてください。



みなさまの愚痴を、雨宮まみが「穴の底」にてお待ちしております。長文大歓迎!
恋愛相手の愚痴も、職場環境にまつわる愚痴も、誰にも言えない愚痴も、「スポーツジムのおじさんの汗がキモイ…」みたいなしょうもない愚痴も、なんでもござれ。大なり小なり吐き出して気を楽にしませんか?
「どうしたらいいでしょう?」のような相談は受け付けておりません。ごめんなさい。


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雨宮まみ
雨宮まみ(あまみやまみ)
ライター。AV雑誌での執筆を経て、女性性とうまく向き合えない生きづらさを書いた自伝的エッセイ『女子をこじらせて』 (ポット出版)で書籍デビュー。以後、エッセイを中心に書評などカルチャー系の分野でも執筆。近著に『東京を生きる』(大和書房)、『自信のない部屋へようこそ』(ワニブックス)など。

「穴の底でお待ちしています」が、ついに本になりました!

『まじめに生きるって損ですか?』


鮮烈なデビュー作『女子をこじらせて』から5年。 対談集『だって、女子だもん!!』から4年。 雨宮まみが、今度は、崖っぷちに立つ女子たちの愚痴を真っ向から受け止めます。
彼氏ができないのは「努力が足りないから」だと言われ続け、「努力っていったい何なんだよ !?!?」と吐き出す20代後半の女性。 家事も子育て、さらには仕事も完璧にこなしているのに、夫から愛されない。「もう頑張れない」とつぶやく30代後半の女性。 小沢健二似の美しい元彼との恋愛でズタズタになっても、やっぱり「美しい人」に惹かれてしまう20代前半の女性。
努力、恋愛、見た目、生き方──、20代、30代の女子たちが抱える人生の愚痴15編。

雨宮さんより一言:
ただの悩みなら自分で解決してるし、人に解決してもらえるようなことなら最初から悩まないよなぁ、という思いから始まったのが、この「穴の底でお待ちしています」という、ただ人の愚痴を聞く連載でした。そこから生まれたのがこの本です。
始めてみると、人の愚痴には、本当に解決しづらい問題や、社会の構図まで含まれているよううなところがあって、しかもみんなただ愚痴っているわけじゃなくて、がんばりにがんばり抜いた末に愚痴っていたりして、だんだん「これって世の中のほうが間違ってるんじゃないですか?」という気持ちになってくることもありました。
正しい人が救われるとは限らない世の中だからこそ、読んでほしい本です。

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