「イミテーション」 恋愛短編小説『恋百色』 第21話

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恋百色

誰かが誰かを好きになって、ちょっぴり涙する。そしてピョンとはずむ。いつもより少しだけ高く。
誰かがあなただけに打ち明ける、失恋ショートストーリー

第1・第3曜日更新

作・みよろり

第21話「イミテーション」

 大学生の頃、私には彼氏が3人いた。「男を天秤にかけてるの」なんて自慢たらしく友達に言ったりしたけど、今考えるとすごく罪深いことだったと思う。

「でも、私には、価値があるから」

 何の疑いもなく、本気でそう信じていた。

 その3人の彼氏って言うのは、一原さん、二宮さん、そして三島くん。覚えやすいでしょう。いつも私は彼らをランク付けしていた。

 一番リッチなのは、一原さんだった。親の財産で何不自由無く暮らしていて、麻布のタワーマンションに独り住まい、愛車は高級車のマセラティだった。

「マセラティ? なにそのメーカー。ベンツとかフェラーリなら知ってるけど」「ははは、じゃ、次はフェラーリにするよ」

 お母さんと同じ45歳だったけど、あの経済力が歳の差なんて帳消しにしてくれた。

 一番イケメンなのは二宮さんだった。家電メーカーの営業マンで、昔ホストだったという34歳。こんな男前と一緒に暮らせるなら、たとえ稼ぎが並でもかまわないと思った。

「二宮さんて、モテそうだから。私、すごく不安になるときがある」「理恵ちゃんにそんなこと言ってもらえるなんて、嬉しい。でも安心して、俺は理恵ちゃんだけだから」

 ニカッと笑うあの甘い顔に、私もずいぶん心動かされたわ。

 三島くんは、一番、心の綺麗な人だった。駅の階段で途方に暮れているお婆さんがいれば背負ってホームまで連れて行ってあげ、道端で仔猫が濡れていれば、拾って飼ってくれる人を探してやった。

「ねぇ、どうしてそんなにお人好しなの?」「そう? したいことを、してるだけだけどなぁ」

 25歳にもなって、売れない画家をしている三島くんは、経済力ゼロで、確かにしたいことだけをしてる欲のない人だった。でも「優しさ」だけで、女を満足させられるだろうか。

「知り合いのオジさんがね、このバッグくれたのよ。ほら、シャネル」「高そうだね」「ね、三島くんもたまには何かくれないわけ? 今日、付き合ってちょうど2ヶ月目の記念日なんだけど」

 三島くんは、それからデートの度にバッグやスカーフ、ブレスレットなんかをくれるようになった。ブランドものばかりでビックリして、案外お金持ってるんだって感心した。

 女子大を卒業した年、私はとうとう3人の男たちの中から本命を1人に絞ることにした。就職して、今までみたいに時間も取れなくなったから。

 最終的に選んだのは、やっぱり一原さんだった。イケメンも良い、心優しい人も良い。だけど、背に腹はかえられない。お金って大事よ。

 私は、二宮さんと三島くんにさよならのメールを送った。

 ショックだったのは、「俺は理恵ちゃんだけだから」なんて言ってた二宮さんからの返信が「そっか、残念。ま〜たね♪」って、これっきりだったこと。やっぱりイケメンは信用ならないって思った。私のことを何だと思ってたのか。

 そして、それ以上に私の心を揺るがしたのが三島くんだった。

 私は、本命を一原さんに決めた後、三島くんから貰ったプレゼントの数々を質屋に持って行った。「誰からのプレゼント?」って一原さんが気にするし、それに、これからはもっと高価なものを、たくさん一原さんから貰えばいいんだから。

 だけど、質屋の鑑定士が「これは引き取れません」と言うの。

「全て、偽物。イミテーションですよ。どうぞ、お持ち帰りください」

 絶句したわ。信じられなかった。あの善人の三島くんが、偽物を私によこしていたなんて。私は恥ずかしさと怒りで、顔を真っ赤にして質屋を出た。私が信じていたものって何だったのか。三島くんのことも、二宮さんのこともそう。みんな私を馬鹿にして。私は彼らに騙されていたんだ。偽物の品々を抱える私の腕は震えていた。

 でも、部屋に戻ると、怒り心頭だった私は徐々に冷静さを取戻した。そして、持ち帰ったイミテーションの山を見て、ふと気付いたの。価値のないものは、はたしてこのバッグやアクセサリーだろうかって。目の前の模造品が、まやかしの姿を晒しながら「本当に価値のないのはいったいどっちだ?」って、生意気にも私に疑問を突きつけてきたの。
 
 私はプレゼントの山を見て、鏡に向かっているような気持ちになった。今までに感じたことが無いほど悲しかった。虚しかった。

 言うまでもないけれど、それから私は、一原さんとの関係にも終止符を打った。まず自分が本物にならなきゃいけないって思ったから。本当の「人間」と言うものに。本当の「私」ってものに。

 人間にもいるのよ、イミテーションが。かつての私みたいに。

〈第21話「イミテーション」おわり〉

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次回予告
第22話「相合傘」 6月18日(水)更新

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みよろり
関西出身、牡牛座、AB型。広告代理店、出版社を経て、フリーライターに。世間の幸と不幸を吸収し、ゆるりと執筆中。

 

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