2016.05.12 12:45

「仕事ではまだまだ未熟、婚活では嫁き遅れ、つらいです」雨宮まみの“穴の底でお待ちしています” 第35回

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穴の底でお待ちしています

誰にも言えない、けれど誰かに言いたい、そんな内緒の悩みやモヤモヤ、しょうもないグチからやりきれないつらさまで、穴を掘ってこっそり叫んでみたい気持ちを発散する、「感情の吹きだまり」……。そんな場所がこのコーナーです。あなたのやるせない気持ちを、安心してブチまけてみませんか? 雨宮まみが聞き手をつとめます。長文の投稿歓迎いたします。

(MACCO/30代前半/女性)

好きで好きであきらめられない片思いを1年続けています。お相手は40歳。独身。身長160cm、中年太りが始まり、頭頂部も薄い人です。顔は私は悪くないと思うけど、友人に言わせれば特に良くない。だそうです。

10歳上です。すごく好きなんです。相手も最初はこちらに好意あり……というか、下心ありというか、とにかく熱心だったんです。でも、私はできれば真剣につきあいたいと体の関係はやんわり断り、デートを重ねていました。

この調子なら大丈夫って思っていました。真剣につきあえるって。でももう連絡が来ないんです。もう脈なしなんです。次に行きたくても次がなく婚活も疲れてしましました。

30過ぎて婚活なんて嫁き遅れといわれます。私はフリーのデザイナーをしています。20代は仕事に必死でした。3年前に独立してがむしゃらでした。

でももう経営難で自営やめてパートでもはじめようか、もう少し粘ろうか……少しだけコンペにも通ってきたし。といった具合です。

仕事ではまだまだ未熟、婚活では嫁き遅れ、つらいです。仕事だって私より若くて才能ある子、コンペたくさんとってる子がいる。なんで自分はこんなにがんばってるのに何も手に入らないんだろうって。

だけど周りはMACCOちゃんすごいね、活躍してるね。とか(たまに地元新聞に記事にされる程度です)、美人だね、とか言ってくれます。こちらはお世辞だとは思っていますが、バストが大きく女性らしい服が好きで、化粧や美容も好きなので、目的が明白な男性が寄ってくることがたまにあり、モテると勘違いされてきました。

努力してきた分は多少報われている、仕事でも服装なりでも。でも、毎日なんで自分は何も手に入らないんだろうって思うのです。

冒頭の片思いに話を戻しますが、好きな人は、とても頭が良いんです。高学歴です。正直こんなに相手にされてなくて、たいしてタイプの外見でもないのに、ここまで好きなのはたぶん学歴なんです。

私の欲しい仕事の分野での勝ち組であることにどうしても魅かれてしまうんです。私はもう疲れたので仕事で成功している男性のそばにいて自己顕示欲を満たしたいんです。

冷静になって、脈ないよ、大して良い男じゃないよ、それより仕事しろって思うのに、できない。

女でいたい。仕事でも成功したい、でもできない。だから仕事のできる男が好きでたまらない。恋愛がうまくいかない、仕事が手につかない。もう最悪です。

(※投稿内容を一部、読みやすいように編集させていただきました。)

で、出たーーーー!!! と思わず叫び声を上げてしまいそうな愚痴をどうもありがとうございます。ちょっと早く話したいんで、缶ビール直飲みでいいですか? 私も一本いただきます。

どこが「出たーーーー!!!」なのかというと、「才能萌え」という、女にとって茨の道だと文化系周辺では語り継がれてきた話にかなり近いものなんです、MACCOさんのお話。しかも、アガリの道として「誰か才能のある人のパートナーになりたい」というのを想定されているのもまた……。才能萌えの典型です。

才能萌えってどういうことなのか軽く説明してみますが、単純に才能のある人がまぶしく見えちゃって恋しちゃうっていう状態のことです。「才能に惚れる」っていうのは別に不健全なことでもなんでもないのですが、これを「茨の道」と呼ぶのはなぜかというと、まず第一にライバルが多いこと。MACCOさんがよっぽどの目利きで、まだ発掘されていない才能を見出して好きになっているのなら別ですが、40歳で仕事ものってる男の人、たぶんそこそこお金もあるでしょうし、髪が薄いとかお腹が出てるとか、たいしたハンデにはなりません。

そして、第二には、業種が近い場合や、その仕事に憧れがある場合、ずっと「自分のほうが能力がないんだ」という劣等感に苛まれる可能性がある、というのがあります。

第三には、関係がダメになったあとでも、相手の才能を目にする機会がたびたび訪れること、目立つ人であれば、次に誰とつきあったとか結婚したとかまで情報が飛び込んでくること……。まぁ、細かいことまで挙げるといっぱいありますが、個人的には「才能に惚れてしまうと、その才能だけは否定できないから、自然と自分が下に立つことに慣れてしまう」みたいなことが起こりがちなので、そこが怖いと思うところです。

仕事の才能は仕事の才能、人としての魅力はまた別だし、自分が一緒にいて居心地のいい人かどうかも別の話、と割り切って考えられるならいいのですが、才能って魅力のうちに入りますから、そこはなかなか難しいですよね。しかも、「才能のある男のパートナー」って、わりとこう……女として勝ち組感あるじゃないですか。あれでしょ? 確定申告ぐらいやったげりゃいいんでしょ?(※個人の感想です)

特にMACCOさんは「私はもう疲れたので仕事で成功している男性のそばにいて自己顕示欲を満たしたいんです」とはっきり書かれていますよね。うう……わかる……。嫌だけどわかります、その気持ち。私も30歳前後にはそういう考えが……あった……ありました。

正直、こういうことは一概には言えないと思うのですが、自分の経験からすると、ダメ絶対、っていうくらいおすすめできません。今現在、彼に追いかけられている立場でもないなら余計にです。彼がすごくいい人だったとしても、対等につきあえる自信ありますか? ないなら絶対やめたほうがいいです。もしつきあえても、劣等感をさらに植えつけられて、気がついたときには仕事もできないくらい心を蝕まれている可能性もあると思います。

自分の欲しいものを、他人を利用して手に入れようとしたら、絶対にダメですよ。そういうことを上手くやっている人もいますけど、MACCOさんの性格的に、自分で自分の手柄じゃないってことはわかってしまうだろうし、そういうことを上手くやれて単純に喜べるかというと、そうじゃないだろうなと思ってしまいます。

「経営難でパートでも始めようか」、私も毎年考えます。「仕事だって私より若くて才能ある子、コンペたくさんとってる子がいる」、そうですね、才能の世界ってそういうものです。「仕事ではまだまだ未熟、婚活では嫁き遅れ」、はい、30代って仕事ではやっと半人前、婚活市場では遅いと言われるほうでしょう。苦しいですよね。会ったこともない好きな芸能人と結婚した女性を意味もなく恨んだりしたくなったり、年の差(女性のほうが年上)スキャンダルを見ては自分は吉田羊じゃないのになぜか勝手に勇気をもらったりしてしまいますよね……。

MACCOさんが、自己顕示欲や自分の才能、やりたい仕事に本当に諦めや区切りをつけられるのなら、他のお仕事をする、という選択もあると思います。でも、諦めきれないなら、ここが踏ん張りどころです。小さくてもいいから、自分の力で勝ち得た自信を持つことを目指してほしいんです。

自信を持つってどういうことなのか、私は長らくわからなかったし、今でもとても難しいことだと思いますが、ひとつだけわかることは、本当に自信を持てると、人は自然体にどんどん近づいていくということです。そうなったときに、そうなった状態のMACCOさんを好きだと言ってくれる人は、信頼できる人だと思いますし、たとえ恋愛や結婚がうまくいかない時期があっても、確かな自信は人を支えてくれます。

その自信って「自分には才能がある」という自信じゃなくてもいいんですよ。「私はなんとか、この分野で◯年やってきたんだなぁ、たいしたもんだなぁ」でもいいし、「こういう作業は本当に好きだなぁ」とか、心から仕事を楽しめる瞬間があった、ということでもいい。たいしたことじゃなくても、過大評価でも過小評価でもない、思い出すと少しだけ「自分はまるっきりダメじゃないよね」と思えるような、そういうことでいいんです。

才能のある人に好きになってもらえたら、そりゃものすごい自己肯定感があると思います。それを求める人生も否定はしません。でも、万が一、得られても失ってしまうこともあると想像すると、最低限の自信だけは自分で持っていてほしいんです。人の才能は人の才能、絶対に自分のものにはなりませんから、せめて「仕事ではまだまだ未熟、婚活では嫁き遅れ」なんて言わない程度の自信は持ってください。MACCOさんは仕事ではまだまだこれから、婚活市場ではどうだか知らないけど恋愛だって全然できる年齢です。

あと、好きな人なのに見下し気味の発言が多いのも気になりました。無意識のうちに、MACCOさんは自分でもオトせそうな程度のレベルで才能のある人、っていう安全パイを選んだつもりだったのに、それがうまくいかなかったから絶望的な気持ちになってしまっただけではないでしょうか。

これはこれ、次の恋愛は次の恋愛で別ものです。次の恋愛は、相手と自分を比べて、どっちが上かとか下かとか、考えずにいられたらいいですね。



みなさまの愚痴を、雨宮まみが「穴の底」にてお待ちしております。長文大歓迎!
恋愛相手の愚痴も、職場環境にまつわる愚痴も、誰にも言えない愚痴も、「スポーツジムのおじさんの汗がキモイ…」みたいなしょうもない愚痴も、なんでもござれ。大なり小なり吐き出して気を楽にしませんか?
「どうしたらいいでしょう?」のような相談は受け付けておりません。ごめんなさい。


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雨宮まみ
雨宮まみ(あまみやまみ)
ライター。AV雑誌での執筆を経て、女性性とうまく向き合えない生きづらさを書いた自伝的エッセイ『女子をこじらせて』 (ポット出版)で書籍デビュー。以後、エッセイを中心に書評などカルチャー系の分野でも執筆。近著に『東京を生きる』(大和書房)、『自信のない部屋へようこそ』(ワニブックス)など。

「穴の底でお待ちしています」が、ついに本になりました!

『まじめに生きるって損ですか?』


鮮烈なデビュー作『女子をこじらせて』から5年。 対談集『だって、女子だもん!!』から4年。 雨宮まみが、今度は、崖っぷちに立つ女子たちの愚痴を真っ向から受け止めます。
彼氏ができないのは「努力が足りないから」だと言われ続け、「努力っていったい何なんだよ !?!?」と吐き出す20代後半の女性。 家事も子育て、さらには仕事も完璧にこなしているのに、夫から愛されない。「もう頑張れない」とつぶやく30代後半の女性。 小沢健二似の美しい元彼との恋愛でズタズタになっても、やっぱり「美しい人」に惹かれてしまう20代前半の女性。
努力、恋愛、見た目、生き方──、20代、30代の女子たちが抱える人生の愚痴15編。

雨宮さんより一言:
ただの悩みなら自分で解決してるし、人に解決してもらえるようなことなら最初から悩まないよなぁ、という思いから始まったのが、この「穴の底でお待ちしています」という、ただ人の愚痴を聞く連載でした。そこから生まれたのがこの本です。
始めてみると、人の愚痴には、本当に解決しづらい問題や、社会の構図まで含まれているよううなところがあって、しかもみんなただ愚痴っているわけじゃなくて、がんばりにがんばり抜いた末に愚痴っていたりして、だんだん「これって世の中のほうが間違ってるんじゃないですか?」という気持ちになってくることもありました。
正しい人が救われるとは限らない世の中だからこそ、読んでほしい本です。

 

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