恋愛短編小説『恋百色』 第11話「おみくじと獅子舞」

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恋百色

誰かが誰かを好きになって、ちょっぴり涙する。そしてピョンとはずむ。いつもより少しだけ高く。
誰かがあなただけに打ち明ける、失恋ショートストーリー

第1・第3曜日更新

作・みよろり

第11話「おみくじと獅子舞」

姉が、広島の実家で正月を過ごすのは数年ぶりだ。

 ここ何年間も、年末年始は女友達と旅行をするのがお決まりだったからだ。彼氏無しの女同士で気ままに旅をするのは、年に一度のご褒美なのだと姉は言う。でも、今年はそういう訳にはいかなかったらしい。なんでも、12月に入って来た仕事で大失敗をしてしまい、結局30日の夜中まで働いてその処理をしなければならなくなったのだ。もちろん旅行はキャンセル。

 誰もいない寒いオフィスでようやく仕事を片付けた姉の心は、今にも折れてしまいそうだったに違いない。就職して6年、仕事にやりがいを見いだせず、姉はこのまま働き続けることに疑問を感じているようだ。

「ケンちゃんはええねぇ、大工って楽しそう」「馬鹿。こっちも色々大変じゃわ」

 姉は今、仕事から逃げ出したい気持ちでいっぱいなのだろう。転職するか、会社を辞めて実家に戻ろうか…。そんな気持ちを引きずって、姉は大晦日の朝、故郷に帰ってきた。

「めずらしいねぇ。佳代が年末に帰ってくるなんて」「たまにはええじゃろ」「なんで帰って来たん?」「娘が帰ってきたのに、なんでって言う?」「あはははは、ま、そりゃそうじゃ。お帰りお帰り」

 例年通り旅行中だと思っていた母は姉の突然の帰省に驚きつつも、目尻を下げて迎え入れた。

「そういえば、宮坂さんとこのリョウくん、帰って来とるんよ」「え!」「脱サラして、農家継ぐんじゃって」「…へぇ、そう」

 母の世間話に姉の目が乙女の色に変わった。リョウというのは、宮坂良一と言って、近所の幼なじみであり、姉の初恋の相手だ。小学生の頃から、高校を出て故郷を離れるまでの間、ずーっと好きだったらしいが、結局一度も告白せず「ただの幼なじみ」を姉は演じきった。閉鎖的な田舎では、恋愛関係がうまくいけばいいが、そうじゃないと互いにやりづらくなってしまう。ご近所であり、幼なじみのリョウに告白をためらった姉の気持ちはよく理解できる。告白ができなかったからこそ、高校を卒業して10年が経った今も、姉にとってリョウは「片想いの人」のまま、鮮やかに心の底に焼き付いているのだ。

「リョウくん、結婚、しとるって?」「いやぁ、まだ独りらしいよ」「そう」

 母と話し終えると姉はすぐに表へと出て行った。リョウの家まで走って行ったのだ。もしかしたら会えるかもしれないと考えて、宮坂家の玄関の前を何度も往復したに違いない。リョウとなら、この田舎で暮らすのも悪くない。いや、むしろ、そんなことできるなら、そうしてみたい。仕事なんて辞めて、ここでリョウと畑仕事をして暮らしていきたい。そんなことを姉は考えたかもしれない。

 小一時間程して帰って来た姉は、玄関の上がりかまちで「はぁ」と溜め息をついた。リョウに会うことができなかったのだろうと、そう思った。

 年が明け、姉と一緒に初詣に行った。姉が引いたおみくじを横目で盗み見ると、「待ち人」の文字が読めた。

【待ち人…すぐ現れる】

 それは、姉にとって良い神託なのだろうと思った。しかし姉は不安そうに目を閉じて、おみくじを握りつぶし、コートのポケットにくじを押し込んだのだ。

 神社の境内では正月に奉納される獅子舞が披露されていた。軽妙なお囃子、軽やかに跳ねる獅子。姉はじっと獅子舞を見ていた。「寒いけぇ、帰ろう」という誘いも無視して、なぜか姉は獅子に熱い視線を送り続けていた。舞が終わり、獅子頭を外して下から人が顔を出した時に、その理由が分かった。獅子舞を踊っていたのは、リョウだった。

 姉とリョウが、朱色の灯籠の側で話をしている。少し距離を置いて、二人の会話が終わるのを待っていた。

 しばらくして姉は、バイバイと手を振ってリョウの元を離れた。家まで帰る道すがら、姉は全てを教えてくれた。

 昨日、姉は宮坂家の前で、リョウに出会っていたのだ。そしてそこで、ずっと好きだったことを打ち明けていた。仕事に悩んでいることも話したらしい。

「もし。もし、お付き合いできるなら…」

 姉の告白にリョウは即答ができなかったらしい。ただ、元旦の獅子舞を見に来て欲しいと、そう言ったのだ。

「でも、さっき。振られてしもうた。そういう気持ちは無いんじゃって。今も、昔も」

 そう笑って、姉はポケットからくしゃくしゃになったおみくじを取り出し、指でのばした。

【待ち人…すぐ現れる】その下に、【恋愛…再出発せよ】と書かれていた。

「あそこのおみくじ当たるねぇ」「元気出せってことじゃよ」「うん。もうちょっと、東京で頑張ってみるわ」

 姉は、失恋を予知していたおみくじを参道の木に結んで、再び歩き始めた。その背中は、さみしそうで、でもどこか晴れやかなすがすがしさがあった。

〈第11話「おみくじと獅子舞」おわり〉

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次回予告
第12話「遅れて届いた年賀状」1月15日(水)更新

みよろり
関西出身、牡牛座、AB型。広告代理店、出版社を経て、フリーライターに。世間の幸と不幸を吸収し、ゆるりと執筆中。

 

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