世間では忌み嫌われがちな、からす。ですが、神話的には吉兆を示す生き物なんだそうです。そういえば熊野三山では、神の使いとしてからすが信仰の対象になっているし、日本サッカー協会のシンボルも八咫烏(やたがらす)です。すべてを覆い隠す黒という色にはなにがしかの霊力が宿りやすく、人々は無意識にそれを感じ取り、怖れてしまうのかもしれません。今回はそのからすをモチーフとした団扇が授けられる、大国魂神社の「すもも祭」に行ってきました。
府中駅を降りると、目の前に立派なけやき並木が広がっています。この駅前通りが神社への参道で、そもそもは源頼朝・義家父子がけやきの苗千本を奉納したのが並木のはじまり。現在のけやき並木は江戸時代に徳川家康が植えたもので、国の天然記念物に指定されています。
神社の方向へ歩いていると、こちらに向かって歩いてくる人たちの手には、黒い団扇が。おお、これがあのからす団扇か!私も早く欲しい。
参道を進んで鳥居をくぐると、すもも屋さんがビッシリ並んでいる一角が。軒からたくさんぶら下げられた、網に入ったすもも。艶めいた黄や赤が可愛らしいです。すももの相場は一袋1000円。なぜすももかというと、これまた源頼朝・義家父子が戦勝お礼参りのさいに起こしたお祭りで、すももを奉納したことからはじまったのだとか。そして、すもももまた、邪気払いのアイテムなのだそう。
この大国魂神社、周辺の6つの神社が合わさってできた武蔵の国を代表する神社で、道幅、木々の存在感、境内の広さ、本殿のたたずまい等、どれを取ってもスケールが大きい! そこらに漂う「気」の量もハンパじゃありません。本殿には長蛇の列ができていて、20分ほど待ってようやくお参りすることができました。お賽銭箱の横には、涼しげな氷柱が。からす団扇とからす扇子も無事入手し、境内のまわりをブラブラと散歩。
立派なけやきが並ぶ参道もすばらしいですが、境内裏手にある森はちょっとすごいです。表の喧噪から隔たった静かな空間で、個人的には露店で買い食いする時間を削ってでも、ぜひ歩いていただきたいエリア。樹齢数百年はありそうな大木・巨木がいくつも立っていて、樹の息づかいが聞こえてくるようです。特に存在感を放っているのが、20メートルもある大銀杏。そのまんま神様なんじゃないかと思うようなたたずまいで、手を合わせている人も何人かいました。
という感じで、からす、すもも、森……と(しりとり?)、いろんな方向に広がりのあったすもも祭り。夏をゆっくり、しっとりと楽しませていただきました。
さて。突然ですが、この連載は今回が最後となります。
短い間でしたが、お祭りを取材すればするほど、すべての文化は神事と通じてるんだなぁと感じました。踊りや音楽、相撲などは、もともと神様に奉納するためのものでしたし、建築、衣服、食物、お酒、動物、植物、季節の行事全般…ほとんどのことが神様とつながっています。ということは、日常のことを大切に感謝しながら暮らしていれば、おのずと福はやってくるんじゃないかなぁと思うわけで。コラムの内容と矛盾するようですが、特別なパワースポットなど行かなくても、福は呼べるのです!ありがとうございました。