ここは、みなさんの頭の中にあるタロット美術館。
重厚な扉を開け、長い回廊を進むと…、数々のタロットが時空を超えて目の前に現れます。
占星術・タロットの日本における第一人者である鏡リュウジ先生と元美大生でご自身でもタロットカードリーディングをされる女優の鈴木砂羽さん。おふたりが、さまざまなタロットカードを挟んで、10回にわたりその絵柄の中に眠る物語を紐解いていきます!
◎出演者紹介

鈴木砂羽
女優として数多くの作品に出演。その傍ら「さわにゃんこ」名義でタロットリーディングを楽しむ日々。

鏡リュウジ
幅広いメディアで活躍し、タロットカードの監修や関連書籍の翻訳・執筆も数多く手掛ける。
日本文化と融合したタロットとは…
前回は、フェミニズムの影響を受けたタロットをご紹介しました。
そして今回、鏡先生と砂羽さんの手元にあるのは、なんだかおどろおどろしい絵柄のタロット…。
不思議な魅力が漂う妖怪タロット
砂羽さん:このタロット、面白いなと思って手に取ったら、鏡先生のお名前があって、びっくりしたんですけど…!
鏡先生:そうそう、これは、水木さんとね。
ん…?水木さん?? ということは、もしや、水木しげる先生!?
そう。おふたりの手元にあるのは、鏡リュウジ先生が監修した『水木しげるの世界妖怪タロット』です。
砂羽さん:こういったタロットも監修されているんですね。興奮しちゃいました! タロットカード全てに、それぞれ妖怪を当てはめたんですか?
鏡先生:はい。もともと水木先生のお手元にあった絵を使ったものもあります。編集担当が妖怪オタクで、このタロットを作ることになりました。京極夏彦先生が解説本の装丁をしてくださっている、恐ろしいほど貴重な限定版もあるんですよ。
砂羽さん:すごいですね! その限定版ではないですが、このタロットに中古で3~4万円の値がついてるのを見かけましたよ。
鏡先生:え? そうなの!?
ご自身が監修したタロットが、中古でも高値がつく人気商品になっていることに驚いた様子の鏡先生。
水木先生との間には、面白いエピソードがあるようです。
鏡先生:水木先生とは、何度かお目にかかっています。最初にお会いしたのは、僕が大学生くらいのときじゃないかな? 福島県にある妖精美術館のオープニングイベントに呼ばれた際、ご一緒したんです。
砂羽さん:へぇ。そんなに前からご縁があったんですね。
鏡先生:そうなんです。その頃から本当に自由な方でしたよ。夜、水木先生がいなくなって「どこに行ったんだろう?」と騒ぎになったりして…。帰ってきた先生に「どこに行っていたんですか?」って聞いたら、ひとりで山に入ったと。ちょっと危ないですけどね…。
砂羽さん:妖怪に会いに行ったのかな? いろいろ想像しちゃいますね。
妖怪タロットのリーディングは難易度高め!
水木先生の自由エピソードで盛り上がる中、砂羽さん、手元のタロットをまじまじと見て…。
砂羽さん:これは、読むのが難しいカードですね。たとえば、この「ワンドの9」とか…。頭が3つある妖怪ですよね。どうして、これをモチーフにしたんだろう? 「妖怪がめっちゃ人を食べてるじゃん! ちょっと待ってよ」って、タロットカードとしてリーディングするよりも、絵の強烈な個性に引き込まれちゃいます。
「水木しげるの世界妖怪タロットカード」

鏡先生:そうかもしれませんね。
砂羽さん:こっちは「ワンドの7」。サラマンダーが描かれているけど、このサラマンダーが戦っているということなのかな? これは「カップの3」だから、乾杯して「楽しい、楽しい」ってなっている妖怪の姿とかですかね?
「水木しげるの世界妖怪タロットカード」

「水木しげるの世界妖怪タロットカード」

***ちょっと解説***
タロットカードにおいて、基本的に「ワンドの7」はパワフルに戦うエネルギーを、「カップの3」は、円満な人間関係や楽しい交流を意味しています。
砂羽さん:それで、このカードが、相互理解を意味する「カップの2」なんですよね。
やっぱり私にとっては読むのが難しいタロットだなって感じます。でも、いろんな人がいて、それぞれが己の感性で読んでいくのがタロットだと思うので、中には、妖怪というモチーフだからこそインスピレーションが湧いて読みやすい人もいるんだろうな。
「水木しげるの世界妖怪タロットカード」

鏡先生:そうですね。コレクターズアイテムというくらい、特徴的で個性的なタロットですから。
水木しげる先生の妖怪愛が爆発しているタロットカード。「読むのが難しい」と言いつつも、タロットのエネルギーに惹きつけられるように、砂羽さんは興味深そうに、次々と手に取っていました。
浮世絵がタロットに影響を与えていた!?
日本の伝統文化と西洋のタロットが融合した、水木先生の妖怪タロットは、不思議な魅力を放っていますね。
日本の伝統と言えば、日本を代表するアート・浮世絵。実は、この浮世絵と、2大タロットのひとつと言われる「ウエイト=スミス版」にも深い関係があるようです。
鏡先生:「ウエイト=スミス版」は、浮世絵の影響も受けているんですよ。
砂羽さん:え? 浮世絵!?
鏡先生:よく見ると、黒い線を入れて、絵の輪郭をはっきりと出しているでしょ?

砂羽さん:はい、しっかり輪郭を描いていますね。
鏡先生:これが浮世絵の影響なんです。
砂羽さん:つまりジャポニズムということですか!
鏡先生:ウエイト=スミス版の絵を描いたパメラ・コールマン・スミスは、アメリカ人なんです。ニューヨークの学校で美術を学んでいるんですけど、そこはフェノロサなんかも影響していたらしい。だから、ウエイト=スミス版タロットをさかのぼっていくと、フェノロサ、岡倉天心…なんて流れが見えてくるかもしれませんよ。
砂羽さん:そんなことも教えていただいてこのタロットを見ると、ますます愛着が湧いてきますね。
***ちょっと解説***
アーネスト・フェノロサとは、ウエイト=スミス版ができた19世紀後半に活躍した、アメリカの東洋美術史家。日本美術を高く評価していました。明治時代には、富国強兵を推し進める日本政府に雇用され、当時の日本にとっては斬新な知識や技術を与えてくれた人物のひとりです。
タロット発祥の地はヨーロッパですが、様々な国の文化やアーティストの技術と結びついて、新たなイメージが構築されていき…。タロットの世界は一度興味を持ったらどんどん潜っていきたくなる、まさに深淵!
次回は、いよいよ最終回! さらに日本の漫画家のタロットが登場します!
株式会社ヴィジョナリー・カンパニー
今回、鈴木砂羽さんと鏡リュウジ先生のおふたりにお話を伺ったのは、タロットやオラクルカードの出版・輸入販売を行う会社、ヴィジョナリー・カンパニーの事務所の一室です。様々なカードが壁一面に並ぶステキな空間からおふたりのトークを届けします。
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※次回もお楽しみに(日曜更新)

鈴木砂羽
女優。1994年映画『愛の新世界』で主演デビュー。同年、ブルーリボン新人賞やキネマ旬報新人賞など受賞。以後も、ドラマ、映画、舞台以外にもバラエティー、マンガの執筆など意外と幅広いジャンルで活躍中。さらに、プライベートでタロットリーディングをするなど占い好きな一面も。
■Twitter:@bom_schedule
■YouTube:砂羽ラボ。

鏡リュウジ
雑誌、テレビ、ラジオなど幅広いメディアで活躍し、絶大な人気を誇る心理占星術研究の第一人者。占星術、占いに対しての心理学的アプローチを日本に紹介し、従来の「占い」のイメージを一新した。英国占星術協会会員、日本トランスパーソナル学会理事、平安女学院大学客員教授、京都文教大学客員教授など多方面で活動中。
■Twitter:@Kagami_Ryuji
■公式サイト