漫画家として活躍するカレー沢薫さんの連載コラム「アクマの辞典」
このコラムは、ア行からワ行まで、女や恋愛に関する様々なワードをカレー沢さん独自の視点で解釈していきます。女の本性をあぶりだす新しい言葉の定義をとくとご覧あれ!
第70回 アクマの辞典 ワ行
【ワ】
➤「笑いのツボ」(わらいのつぼ)
…同じことで笑えるかより、笑えないことで相手が笑ってるほうが致命的
今回のテーマはわ行から「笑いのツボ」である。
付き合うなら笑いのツボが合う人が良いと言われる。
しかしこれが「婚活」だったら、笑いのツボの優先順位は28位ぐらいで「好きな牛丼チェーン店」とタイ程度だと思う。
なぜなら、どんなに大爆笑ギャグでも、3日間、水と指のサカムケしか食ってない状態では笑えないし、逆にその状況が一番笑えるぐらいだ。
「楽しさ」というのは「衣食住」が足りている状態で初めて感じられるものである。
たまに、食費を削ってガチャを回したり、同じCDを何枚も買ったりと、生活を犠牲にして趣味を楽しんでいる者もいるが、それは単身者のみに許された自傷行為であり、パートナーがそれでは困る。
少なくとも、衣が足りてなくてパパが全裸では、家族で外食を楽しむことも叶わないだろう。
婚活で最初に「年収」を見ると嫌がられるが、よほど自分に稼ぎがない限り、そこがダメなら全部ダメになりかねないのだから当然だ。
しかし、結婚などの「生活」を考えない交際の場合、「笑いのツボ」はかなりランクを上げてくる。
実際「好みのタイプは?」と聞かれて「優しい人」に続いて出てくるのは「楽しい人」であることが多い。
これは、細かい話をして好感度を下げたくないヤツや、なぜお前に自分の趣向を明かさなければいけないのかと静かにキレてるヤツ、そしてスゴイ性癖を持っているヤツが質問をかわす時に使う常套句でもあるが、全く嘘というわけではない。
生活や将来を考えないという“恋愛エンジョイ勢”なら「一緒にいて楽しいか」というのは最重要事項である。
しかし、何をもって「楽しい」とするかは個人によって違う。たとえば「共産主義あるある」などに笑えるかどうかはかなり好みの分かれるところだろう。
よって、カップルが一緒にいて楽しいと感じるためには「笑いのツボ」が合致しているに越したことはないのだ。
笑いのツボが違うと、一緒にいて楽しくない上、さらに「こっちが面白いと思って言ったことに相手がドン引き」という事故が起こりやすい。
“下ネタ絶許勢”と、ウンコとちんちんの話さえしていれば一生笑顔でいられるという“コロコロ勢”とでは、両方が面白くなれるタイミングはなかなか訪れない。大体は片方爆笑、片方ドン引きになりやすく、結果「一緒にいても楽しくない」となってしまうのだ。
逆に言えば、笑いのツボより重要なのは「ドン引きのツボ」の合致なのかもしれない。
笑いのツボが多少ズレているぐらいなら、他の好きなところでいくらでもカバーできるし、ウンコギャグで笑いたければ、ウンコ友達と笑えば良い。
一方、差別ギャグなどの自分がドン引きすることに対し相手が引いていない、むしろそれを面白いと思っている姿を見るというのは一発アウトになりがちである。
「笑いのツボの合致」というのは、状況によってかなり優先順位が変動する。
しかし「倫理観の一致」だけは“エンジョイ勢”も“婚活ガチ勢”も常に上位に置いておかないと、楽しくない上に、生活も破綻することになりかねないのだ。
【ワ】
➤「笑いのツボ」(わらいのつぼ)
…同じことで笑えるかより、笑えないことで相手が笑ってるほうが致命的
【ヲ】
➤「ヲシャマンベ陣屋」(おしゃまんべじんや)
…毎回恒例、苦し紛れのヲ 今回は江戸時代にあった屯所だそうです
【ン】
➤「ん廻し」(んまわし)
…料理に慣れない男たちが酒肴を持ち寄る落語、自分は何もしないのにホームパーティを開きたがる男よりはマシ