ここは、みなさんの頭の中にあるタロット美術館。
重厚な扉を開け、長い回廊を進むと…、数々のタロットが時空を超えて目の前に現れます。
占星術・タロットの日本における第一人者である鏡リュウジ先生と元美大生でご自身でもタロットカードリーディングをされる女優の鈴木砂羽さん。おふたりが、さまざまなタロットカードを挟んで、10回にわたりその絵柄の中に眠る物語を紐解いていきます!
◎出演者紹介

鈴木砂羽
女優として数多くの作品に出演。その傍ら「さわにゃんこ」名義でタロットリーディングを楽しむ日々。

鏡リュウジ
幅広いメディアで活躍し、タロットカードの監修や関連書籍の翻訳・執筆も数多く手掛ける。
2大タロットの1つ「ウエイト=スミス版」
前回は、15世紀にタロットが生まれて以降、寓意画の潮流に乗って、タロットが広まっていった頃のお話でした。
今回は、19世紀まで時代を飛び越えます!
鏡先生と砂羽さんの手元にあるのは、前回ご紹介した「マルセイユ版タロット」と並んで、2大タロットとして有名な「ウエイト=スミス版タロット」。
カードゲームとして親しまれてきたタロットが占いに使われるようになるまでには、どんな経緯があったのでしょうか? ここで砂羽さんから鏡先生へ質問が…。
砂羽さん:ところで先生、占いで使われるタロットカードには、どうして、こんなふうに1枚1枚に意味があるんですか?
鏡先生:今、ワールドワイドに普及しているタロットについて言うと、まず、大アルカナにおいては、19世紀の末頃の魔術結社が関係しているんですね。当時、魔術結社のメンバーはアーティストが多かったと言われています。彼らは、自分たちが大切にしていたオカルト的な宇宙観とタロットを結び付け、そこから、大アルカナの意味が決まっていきました。
砂羽さん:なるほど。タロットが生まれた頃、寓意画としてシンプルな意味を持っていたタロットに神秘主義が結び付いたからこそ、占術になっていったんですね。
鏡先生:そうなんです。
なんと、占いとしてのタロットが生まれる過程には魔術結社が関係していたんですね!
一方で小アルカナは、一筋縄ではいかず…。大アルカナと同じように、神秘的な世界観と結び付けて意味を生み出すのにハードルがあったようです。
鏡先生:小アルカナは、もともとトランプ占いに使われたものです。そこでの意味と魔術結社のシステマティックな教義との間に、齟齬が生まれてしまいました。その影響で今でも、小アルカナの解釈が、人によって違ったりするんです。
砂羽さん:そういうことだったんですね。
イマジネーションが膨らむ小アルカナ
有名な2つのタロット「ウエイト=スミス版」と「マルセイユ版」、それぞれの絵柄の違いについて、砂羽さんからこんな意見も飛び出しました。
砂羽さん:私は、マルセイユ版よりもウエイト=スミス版のほうが、カードを読みやすいんですよね。
鏡先生:マルセイユ版は、意味を全部覚えなければいけないですからね。「剣の3」のカードなら、剣が3本描かれているだけですし。
砂羽さん:一方で、ウエイト=スミス版のほうは、ハートに剣が3本刺さっている絵が描かれているので、そこからインスピレーションを得てストーリーを想像しやすいんです。グサグサ刺さってるから、こういう状況なんだろうな…なんて。
左:マルセイユ版 右: ウエイト=スミス版

鏡先生:その意味で、ウエイト=スミス版は、本当にすばらしいんですよ。こちらの監修者はアーサー・エドワード・ウエイトという人物。絵を描いたのはパメラ・コールマン・スミスという女性なんです。
砂羽さん:うんうん。
鏡先生:ウエイトは、ガチガチのオカルティストだったので、大アルカナについては、かなり細かくこだわりました。でも、小アルカナに関しては、あまりうるさいことは言わなかったんじゃないでしょうか。だから、パメラのクリエイティビティがかなり自由に発揮されているんです。
左:マルセイユ版 右: ウエイト=スミス版

砂羽さんの言うように、カードを見るだけでストーリーが浮かんでくるような小アルカナの絵柄は、パメラさんの発想だったんですね。
鏡先生:この小アルカナのクリエイティビティがウエイト=スミス版をタロット不朽の名作にしたんです。
砂羽さん:まさに名作ですね。
パメラ・コールマン・スミスって、どんな人?
鏡先生:パメラは、20世紀初頭、ロンドンで挿絵を描いたり舞台装置や衣装のデザインをしたりしていた人なんですよ。
砂羽さん:そうなんですね! 実は私、このカードの絵柄を「舞台みたいだな」って思っていました。一人ひとり描かれている人物が、役者のように感じられるんです。
鏡先生:うんうん。
砂羽さん:たとえば、悪役が登場してきたシーンのように見えたり、手前にカップがあって人物が去っていく姿だったり。それから、背景として描かれている太陽も舞台の書き割りに描いてありそうって思ったんです。「戦車」のカードの戦車も、動いていない雰囲気があって、いかにも舞台装置という印象なんですよね。
悪役の登場シーンっぽい

書き割りのセットのような太陽

動いてなさそうな舞台装置的な戦車

***ちょっと解説***
「書き割り」とは、主に舞台で背景画として使われる大道具です。
鏡先生:ほんとだ。たしかに! それは、女優さんじゃないと出てこない発想ですよね。
ウエイト=スミス版、こぼれ話…
鏡先生:ウエイト=スミス版は、僕がタロットの勉強を始めた頃は、ライダー・タロットと呼ばれていました。これは、当時の出版社の名前なんです。先ほどもお話しした通り、監修者はアーサー・エドワード・ウエイト、画家はパメラ・コールマン・スミスですね。ただ、残念ながら当時は著作権や印税のシステムがなかったから、パメラは、経済的に恵まれないままこの世を去っていったんです。
砂羽さん:えぇ? こんなに有名なのに! 小アルカナを、ここまで描いたという偉業を成し遂げたのに! タロットを学ぼうという人なら、誰しも教科書として使うような絵を描き上げた方がそんな境遇に置かれていたなんて…。
鏡先生:そうなんですよね。大金持ちになっていいはずなのに…。でも、そのままでは、あまりにもパメラが気の毒じゃないですか。そこで、2009年頃、発刊100周年を記念して、「せめて、ウエイト=スミス版と呼ぼうよ」ということで、ようやくパメラの名前が日の目を見たんです。
19世紀、魔術結社とも影響し合って意味を深めていったタロット。タロット不朽の名作と呼ばれるようになったウエイト=スミス版が発刊されたのは、20世紀の入口でした。
次回からは、1970年代以降のタロットに迫ります!
株式会社ヴィジョナリー・カンパニー
今回、鈴木砂羽さんと鏡リュウジ先生のおふたりにお話を伺ったのは、タロットやオラクルカードの出版・輸入販売を行う会社、ヴィジョナリー・カンパニーの事務所の一室です。様々なカードが壁一面に並ぶステキな空間からおふたりのトークを届けします。
この記事を読んで自分だけのタロットを探したくなった方は、こちらから↓
※次回もお楽しみに(日曜更新)

鈴木砂羽
女優。1994年映画『愛の新世界』で主演デビュー。同年、ブルーリボン新人賞やキネマ旬報新人賞など受賞。以後も、ドラマ、映画、舞台以外にもバラエティー、マンガの執筆など意外と幅広いジャンルで活躍中。さらに、プライベートでタロットリーディングをするなど占い好きな一面も。
■Twitter:@bom_schedule
■YouTube:砂羽ラボ。

鏡リュウジ
雑誌、テレビ、ラジオなど幅広いメディアで活躍し、絶大な人気を誇る心理占星術研究の第一人者。占星術、占いに対しての心理学的アプローチを日本に紹介し、従来の「占い」のイメージを一新した。英国占星術協会会員、日本トランスパーソナル学会理事、平安女学院大学客員教授、京都文教大学客員教授など多方面で活動中。
■Twitter:@Kagami_Ryuji
■公式サイト