(※2020年11月22日 11:45 公開記事)
ここは、みなさんの頭の中にあるタロット美術館。
重厚な扉を開け、長い回廊を進むと…、数々のタロットが時空を超えて目の前に現れます。
占星術・タロットの日本における第一人者である鏡リュウジ先生と元美大生でご自身でもタロットカードリーディングをされる女優の鈴木砂羽さん。おふたりが、さまざまなタロットカードを挟んで、10回にわたりその絵柄の中に眠る物語を紐解いていきます!
◎出演者紹介

鈴木砂羽
女優として数多くの作品に出演。その傍ら「さわにゃんこ」名義でタロットリーディングを楽しむ日々。

鏡リュウジ
幅広いメディアで活躍し、タロットカードの監修や関連書籍の翻訳・執筆も数多く手掛ける。
そもそもタロットのモチーフは何がもとになっているの?
前回はイタリアでのタロットの発祥について取り上げました。
今回は、15世紀にタロットが生まれて以降、寓意画の流行もありタロットが広がっていった頃のお話です。タロットに描かれる人や物がどこから来たのか、について深掘りしていきます。
さて、鏡先生と砂羽さんの手元にあるのは、前回に引き続き、「ヴィスコンティ・スフォルツァ」のタロットのレプリカ。
この「ヴィスコンティ・スフォルツァ」のタロットが生まれて以降、いろいろなバージョンのタロットカードが作られ、その過程では、タロットと当時の絵画表現がとても強く結びついていたそうなのです!
鏡先生:15世紀のタロットは素晴らしいんですけど、いわゆるルネサンスの偉大な画家の作品から比べると、やはり見劣りします。
この時代、何をタロットの絵の素材にしていたかというと、当時、人々がよく知っていた寓意画、アレゴリーなんですね。
***ちょっと解説***
寓意画とは、抽象的だったり曖昧だったりする概念を、具体的な物事に置き換えて描く技法です。たとえば、「机」や「車」などは、具体的な形がありますよね。しかし、「運命」や「平和」、「愛」や「時間」などといったものには、明確な形はありません。これを絵で表現したのが寓意画です。
鏡先生:パッと見て意味がわかる寓意画が、当時、流行っていたんです。というのも、文字を読めない人が多かったからなんですね。教養のある人はその絵を見て謎解きを楽しんでいたんでしょう。それで、教会などにも描かれていたりしました。
砂羽さん:タロットに描かれた象徴的な絵柄を見て、人々は自分なりに意味を感じ取っていたんですか?
鏡先生:いいえ、自由なイマジネーションで意味を読み解くのではなく、記号的に絵に与えられた意味を読み取っていたんです。
砂羽さん:なるほど。当時はモチーフとして必要だったんですね。
ゲームとしてタロットを使うためには、誰もが迷いなく「この絵だ」とわかるものである必要があった。そこで寓意画が採用されたのでしょうか。
鏡先生:たとえば、このカードなんですけど…。
砂羽さん:これは、「愚者」ですよね。
鏡先生:そうです。こちらとほとんど同じ柄の「愚行」という絵を、このカードができるよりずっと前、初期ルネッサンスの時期にジョットという画家が描いているんです。
砂羽さん:そうなんですね。
鏡先生:ほかにも、ルネサンス期のマエストロたちが描いた絵が、タロットの絵柄の源流になっているというのもけっこうあるんですよ。
砂羽さん:いろんな文明や芸術の歴史が積み重なって、タロットは出来上がったんですね。あとは、宗教画を元にしていると、「こんな啓示があるよ」なんて説教するのにも、使いやすかったのかもしれませんね。
***ちょっと解説***
ジョット・ディ・ボンドーネ
中世後期に活躍したイタリア人画家で建築家。ゴシック絵画の巨匠と言われることも。
空間や人物をはじめて写実的に描写し、人間の感情を初めて表現するなど、革新的な絵画は、イタリア・ルネサンスの先駆けとなりました。
最初は愛! 強い順に並べると…
前回、タロットはトランプの元になったカードゲームとして誕生したというお話がありました。そのカードゲームの“切り札”のような役割として作られた大アルカナ。切り札ですから、“このカードが強い”“このカードは弱い”ということが明確でした。そして、その強さを決めるときには、こんなストーリーがあったそうです。
鏡先生:切り札だから、どれがどれよりも強いかという順番が、パッとわからなければいけないんですね。この発想のもとになったもののひとつとされるのが、当時流行していた「トリオンフィ」という詩(歌集)です。
砂羽さん:へぇ。
鏡先生:「トリオンフィ」とは、“勝利”とか“凱旋”って意味のラテン語で、書いたのは、フランチェスコ・ペトラルカという有名な詩人です。
砂羽さん:うんうん。
鏡先生:これは『平家物語』じゃないですが、無常を表現したストーリーになっています。擬人化された寓意画の象徴が順番に訪れ、後からやって来た存在が、前のものを打ち倒して凱旋の行進をするという内容なんですね。
砂羽さん:うんうん。
鏡先生:最初にやって来るのが、愛なんですね。愛は、歴史上の偉大な英雄のように屈強な男たちでさえもメロメロにさせてしまうものですから。
砂羽さん:なるほど。愛は強い!
鏡先生:愛の後にやって来るのは純潔。肉体的な愛よりも、精神的な愛が強いということです。
砂羽さん:ほぉ。
鏡先生:それから、死がやって来る。死はすべてを奪っていくから。その後に、死んでも名前が残っていくということで、名声がやって来る。そして、時間が来て、永遠が現れる。
砂羽さん:なるほど。時間は、カードで言うと「隠者」と似ていますね。
鏡先生:はい。一時はこの詩がタロットの絵札のルーツではないかと言われたほど。
砂羽さん:ふーん、すごいな。
鏡先生:もともと、文学作品ですから絵はないわけですが、その描写をもとに挿絵も描かれるようになりました。文学表現や挿絵などと、タロットの絵柄の共通性が論じられるようになったんです。
タロットの意味も絵柄も、いろいろなものが人々のインスピレーションとイマジネーションを刺激して生まれているんですね。
ちなみに、鏡先生によると、“トランプ”という英単語は“切り札”と訳されますが、先ほど出てきた「トリオンフィ」(凱旋、勝利)と語源的につながっているかもしれないとのこと。
砂羽さん:それにしても、こうやっていろいろとカードを見ていても、当時は、とっても才能のある画家がたくさんいたんだなって感じます。
鏡先生:そうですよね。でもきっと、現物は、さらにきれいだったと思いますよ。当時は顔料が高価でしたから。ラピスラズリとか金箔も使っていたりします。
砂羽さん:画法も、いろいろな種類があったんでしょうね。
鏡先生:中世からの伝統的な、細密画(ミニチュアール)という形式ですね。
マルセイユタロットとは?
次におふたりの手元に現れたのは「ヴィスコンティ・スフォルツァ」とは、ガラリと雰囲気の違うカード」。二大タロットのひとつである「マルセイユ版タロット」です。
砂羽さん:タロットはイタリア発祥ということでしたけど、フランスのイメージもありますよね。
鏡先生:フランスのマルセイユが、タロットの一大産地になったからだと思います。これは、イタリア戦争などを経て、結果的にフランスが文化の中心になっていったことが理由なんです。
砂羽さん:産地の地名がそのままタロットの名前になったんですね。
鏡先生:そうなんです。ただ、マルセイユで「マルセイユタロット」ができたと誤解している人も多いんですが、それは違います。今で言うマルセイユスタイルのタロットの原型は早くにミラノでできています。その後、フランスやスイスなどでこの系列の絵柄が制作されるようになりました。その後、20世紀に入ってから、フランスのカードメーカーが、「マルセイユ版」という名前で売り出したんです。
砂羽さん:それってつまり、響きがかっこいいから特許を取っちゃった…というような話ですよね!?
鏡先生:その通りです(笑)。
砂羽さん:つまり、「マルセイユ版タロット」って有名だけど、生まれた土地じゃなくて、製造していた土地のひとつに由来するんですね。しかも、そんな商業的な理由で名付けられたなんて、驚きました。
驚きのビジネス事情が絡んでいたタロット…。
次回は、この「マルセイユ版タロット」と並んで2大タロットのひとつとして知られる、「ウエイト=スミス版タロット」の歴史です!
株式会社ヴィジョナリー・カンパニー
今回、鈴木砂羽さんと鏡リュウジ先生のおふたりにお話を伺ったのは、タロットやオラクルカードの出版・輸入販売を行う会社、ヴィジョナリー・カンパニーの事務所の一室です。様々なカードが壁一面に並ぶステキな空間からおふたりのトークを届けします。
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鈴木砂羽
女優。1994年映画『愛の新世界』で主演デビュー。同年、ブルーリボン新人賞やキネマ旬報新人賞など受賞。以後も、ドラマ、映画、舞台以外にもバラエティー、マンガの執筆など意外と幅広いジャンルで活躍中。さらに、プライベートでタロットリーディングをするなど占い好きな一面も。
■Twitter:@bom_schedule
■YouTube:砂羽ラボ。

鏡リュウジ
雑誌、テレビ、ラジオなど幅広いメディアで活躍し、絶大な人気を誇る心理占星術研究の第一人者。占星術、占いに対しての心理学的アプローチを日本に紹介し、従来の「占い」のイメージを一新した。英国占星術協会会員、日本トランスパーソナル学会理事、平安女学院大学客員教授、京都文教大学客員教授など多方面で活動中。
■Twitter:@Kagami_Ryuji
■公式サイト