漫画家として活躍するカレー沢薫さんの連載コラム「アクマの辞典」
このコラムは、ア行からワ行まで、女や恋愛に関する様々なワードをカレー沢さん独自の視点で解釈していきます。女の本性をあぶりだす新しい言葉の定義をとくとご覧あれ!
第62回 アクマの辞典 カ行
【ク】
➤「口下手」(くちべた)
…「大人っぽいからお母さんと同い年くらいかと思ってました」など、言いたいことをはっきり言える口下手もいる
今回のテーマはか行から「口下手」である。
ブスのことを「前衛的フォルム」と言ったりするように「口下手」というのはコミュ症を最大限ポジティブに表現した言葉だと思う。
「千葉雄大が口下手で不器用な青年を演じる」などと言われた日には、最終回まで録画予約不可避だろう。
しかし、実際の口下手というのはそんな可愛いものではないし、大体顔も千葉雄大ではない。
「口が上手い」人間に比べれば「口下手」な人間というのは真面目で誠実というイメージがあるかもしれない。
しかし実際には、どれだけ根が真面目でも「口下手」なせいで行動が不誠実極まりなくなってしまうヤツもいるのである。
確かにつきあう前は、そういうリスの如くモゴモゴしているのがカワイイと思えるかもしれない。だが、交際、結婚ともなれば正確な意思疎通は不可欠であり、時には「説明」という高度なコミュニケーションが必要な時もあるだろう。
「今日、マックスバリュの前を一緒に歩いていたヒョウ柄の服の女は誰?」などという疑念を掛けられた時、「お母さんです」という説明ができれば、事実はどうあれ相手は多少安心するのだ。
口下手な人間でもお母さんぐらいなら言えるかもしれない。しかし、それ以上の高度な説明になると、説明放棄して「誤解だ」の一点張り、下手をすると「黙ってどこか行く」といった逃亡を図ってしまう。
また、結婚生活ともなれば「話し合い」は不可欠となる。買い物をするのに「このホットサンドメーカーを買うことにより我が家の食生活どれだけ潤い、庭に石油がわくか」などプレゼンという名の「説得」が必要な時も訪れるだろう。
だが、口下手の人間というのは己のプレゼン能力のなさに自覚があるため、最初から相手を説得するのを諦めてしまったりする場合も多い。
その結果、何をするかというと「勝手に買う」という暴挙である。
このように、口下手の人間はこちらの疑念を晴らす「説明」をしてくれないので、こちらは不安になる一方なのだ。その上、「報告」もできないので何かあっても隠される、相手を「説得」する気もないので、相談なしで勝手な行動を取られるということが多いのである。
本人にそんなつもりはなくても、行動は完全にモラハラクソ野郎なのだ。
つまり、意志の疎通ができないので最終的に「こいつ私の話聞いてんのか」と、聞く能力にすら疑問を持たざるを得なくなってしまうのだ。
口下手の人間とつきあおうと思ったら「ホウ・レン・ソウ」はちゃんとしろという、社会人1年目に対するような新人教育は不可欠である。
もしくは、口で伝えるのが苦手なら、メールやモールス信号、手旗でも良いと、相手の使いやすいツールを見つけておくべきだ。
【カ】
➤「カエル化現象」(かえるかげんしょう)
…自分に振り向いた途端相手に興味がなくなる現象。「自分を好きになるような推しは推しじゃない」と夢妄想の途中で暴れ出すオタクの真理にも近い
【キ】
➤「既読スルー」(きどくするー)
…メンヘラよりメンヘラを恋人にもつ者のほうがこの機能を憎んでいる
【ク】
➤「口下手」(くちべた)
…「大人っぽいからお母さんと同い年くらいかと思ってました」など、言いたいことをはっきり言える口下手もいる
【ケ】
➤「化粧」(けしょう)
…外出自粛で必要がなくなり肌がきれいになるかと思いきや、運動不足と暴食でそんなことはなかったぜ
【コ】
➤「言葉攻め」(ことばぜめ)
…語彙力と頭の良さがなければ「この…ばか!」という小学生のケンカになる