石井ゆかりの『幸福論』 3. 「知る」という幸福・前編

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石井ゆかりの幸福論

大人気のライター・石井ゆかりさんによる連載コラムが登場! 占いを通して、数々の人生や幸せのあり方を見つめてきた石井さん自身の言葉で紡がれる「幸福論」をお楽しみください。

今回は、「石井ゆかりの幸福論」第3のテーマ“「知る」という幸福”についてお届けします。

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3. 「知る」という幸福・前編

星占いの「12ハウス」のシステムに沿って、12のテーマから「幸福」について語る本コラムですが、第3ハウスは「学習・コミュニケーション」のハウスということで、当初は「語り合える相手がいる、という幸福。教養という幸福。」というタイトルを想定していました。
ただ、これを書く段になって色々考える中、どうもこのタイトルに違和感が出てきました。

先日『悪魔の手紙』(C.S.ルイス著)という本を読みました。ファンタジーの名作『ナルニア国物語』でおなじみの著者の作品で、「引退した老悪魔が、神様に対抗する手段を指南する書簡集」です。初めて人間を誘惑する若い悪魔に、熟練の老悪魔が手紙を送り、「やつ(神様)」を出し抜くにはどうしたらいいか、こまごまと教えてやるのです。

手紙の中で老悪魔は、若手の失敗を注意します。「おまえがその人間に好きな本を読ませ、大好きなルートで散歩させたのは、大失敗だ」と言うのです。
誰かに気の利いたことを言うために読む本とか、「ためになる本」を読ませるのは、魂を堕落させるのに有意義です。でも、純粋に楽しむためだけに本を読むのは、堕落を妨げるのです。
悪魔によれば、未来のため、成長のため、自分を高め守るために学ぶのは、堕落への大事なルートなのです。一方、自分の心を純粋に楽しませるためだけの読書は、その人を強くし、堕落から守るものとなります。散歩もまたしかりです(実は、星占いの第3ハウスのテーマには、「散歩」も十分含まれます)。

石井ゆかりの幸福論

「ただ純粋に楽しむことこそが堕落で、『ためになる本』を読むことは、むしろその人を成長させ、強くするのではないか?」と思う人も多いと思います。少なくとも世間一般には、そう考えられています。成功のための本、気の利いたコメントをするための本、人に知識を自慢するための本、未来に備えるための本は、今も世の中に溢れています。学校でも「ためになる本」を読むことが大いに奨励されます。
ですが、もし悪魔の言う通りなら、それこそが私たちを「弱くする」のです。

これを読んで私は、はっとしました。
というのも、以前インタビューをさせて頂いた、大阪大学の仲野徹先生の言葉を思いだしたからです。仲野先生の専門は病理学ですが、本当に広い分野に興味を持ち、あらゆる本を読み、世界中を旅して、つねに勉強を続けられています。私は仲野先生に「なぜそんなに、あらゆることを知りたい、と思われるんでしょうか」と質問しました。すると先生は「知ることが楽しいから」と答えられました。

石井ゆかりの幸福論

私は、「知ること」とは、色々な意味で辛いことだと思っていました。
子供の頃は漢字が覚えられない、計算ができないことに苦しみました。受験勉強は好きになれませんでしたし、年号も英単語も、なかなかアタマに入らなくて困りました。新しいことを教わるときには「理解できなかったらどうしよう」と怖ろしく、物知らずなことを嗤われることが怖ろしく、社会に出ればわからないことだらけでまごまごしました。知っていることの中だけで生きて行けたら、どんなにいいだろう、と心から思いました。勉強すると、つぎつぎに「自分の知らないことがまだまだたくさんある」とわかるばかりで、どんどん不安になります(そう言えるほど勉強したというわけでもないのですが)。
仲野先生が「知ることは楽しい」と言われたとき、私は、いまいちピンときませんでした。私には、「知の世界」は、怖ろしい世界だったのです。

今でも「本を読まなくちゃ、あれもこれも読まなくちゃ」と焦りつつ、まわりに本をたくさん積んでいますが、ぜんぜん思うようには読めません。読んでもアタマに入らなくて、ページの上を目が上滑りすることもよくあります。この状態は小学校の頃から今に至るまで、ほとんど変わっていない気もします。
これらはすべて、悪魔に言わせれば「堕落の道」なのです。

一方、私は純粋な楽しみのための勉強や散歩を知らないか、というと、実はそれを、私はよく知っています。純粋に、楽しみのためだけに読む本が、私にもあります。無目的にどこまでも歩いて行く散歩を、私は何度も楽しんできたように思います。
ただ、自分でそれらを「大事なこと」だと思ったことはありませんでした。好きなものを読んでいると、なにか怠けているような気がします。本当に読むべきものを読まずにラクをしているようで、後ろめたい気がしてしまいます。
ですが「悪魔」は、それこそが自分を「堕落から救う道」だと言うのです。

>>次回もお楽しみに ~3. 「知る」という幸福・後編(7月26日更新)

石井ゆかりの『幸福論』

  1. 「自分が自分である」ということ
  2. お金があれば、幸福になれるか?
  3. 「知る」という幸福。
  4. 「帰るべき場所」と幸福。
  5. 愛と創造について。
  6. 自分の心身に必要なこと、必要とされること。
  7. 「パートナーシップ」と幸福。
  8. 自分の人生は「自分だけのもの」なのか。
  9. 遠く仰ぎ見て「わたしとは何か」と問う。
  10. 「自己実現」とは何か。
  11. 「友」と「希望」。
  12. 「幸福」とはなにか。

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※Webサイト「筋トレ・週報」より転載。スマホ有料コンテンツ
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石井ゆかり(いしいゆかり)

ライター。星占いの記事やエッセイなどを執筆、「12星座シリーズ」(WAVE出版)は120万部のベストセラーに。Twitterのフォロワー数は30万を越える。著書多数。

 

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