漫画家として活躍するカレー沢薫さんの連載コラム「アクマの辞典」
このコラムは、ア行からワ行まで、女や恋愛に関する様々なワードをカレー沢さん独自の視点で解釈していきます。女の本性をあぶりだす新しい言葉の定義をとくとご覧あれ!
第33回 アクマの辞典 サ行
【シ】
➤ 「失恋」(しつれん)
…失えるところまでいけるのは恋愛エリート
今回のテーマはサ行から「失恋」だ。
この世の中には、カップ焼きそばの麺を三角コーナーに全部ボッシュートしたり、湯切りには成功したがかやくを入れ忘れていたり、逆に後から入れるソースを先に入れていたりと、様々な悲しみがある。
カップ焼きそば一つでこれだけ悲しめるのだから、その数は計り知れない。
その中でも失恋の悲しみは別格と言われている。
しかし私自身は、失恋らしい失恋をしたことがない。
勘の良い読者はすでに気づいてショウ・タッカーに殺されていると思うが「失恋したことがない」=「モテる」ではない。
逆に真にモテず、恋愛に縁がない奴というのは失恋するところにまでいけないのだ。
ない袖が振れないように、したことない恋を失うことはできないのである。
モテない自信がある人間というのは、「成就確率0%」と気象庁に発表されている自分が恋をしたところで、失恋して無駄にダメージ負うだけと思っているので、恋自体を徹底的に避け、老人のように、ときめきは全部不整脈だと思って生きている。
モテない人間だけではなく、人間は年を取るにつれ「失恋を恐れて恋をしなくなる」傾向にあるという。
年を取ると身体的に傷の治りが遅くなり、かさぶたが剥げた後にかさぶたができるという無限かさぶた製造機となり、一向に傷が癒えない。
心の傷の治りに年齢が関係あるかどうかは不明だが、大人になると「そうそう心を負傷するわけにはいかなくなる」のは確かだ。
中高生なら失恋しても勉強が手につかなくなるぐらいで済むかもしれないが、大人が失恋して仕事や家事ができなくなったら生活が破綻する。
恋などという決して不可欠でないものに、生活を狂わされるわけにはいかない、という思いが人を恋から遠ざけるのだ。
婚活サイトやマッチングアプリが流行っているのもそのせいかもしれない。
出会いを求めている人間が集まるところなら成功率も高いし、そういう媒体を挟めば上手くいかなくても「失恋」とは言わず「ご縁がなかっただけ」として、ダメージを減らすことができる。
恋愛からできるだけ恋部分を省略しようとしているのが、現代の大人の恋愛なのかもしれない。
最近は中高生でも、直接「好きだ」などと面と向かって告白することは少なく、LINEやメールなどで済ますほうが多いのではないだろうか。
対面ではないため、告白のハードルが下がるし、断られたら「ナンチャッテσ(^_^;)」と突然おじさんになって、冗談でした、と逃げることもできる。
しかし、LINEやメールでの告白のほうが実はリスクが高い。
昔ラブレターが回し読みされたように、おもしろLINE告白は即スクショを取られて回されるだろうし、最悪SNSで全世界に晒される。
一番そういうリスクがないのは「対面口頭」なのである。
最近は24時間で投稿が消えるインスタグラムのストーリーが人気だそうだが、それよりも早く消えて、データも残らないのが口頭なのだ。何でも保存されて拡散される世の中においてはこのアナログ方法が一番頭の良い告白とも言える。
ただ相手がボイレコで録音している可能性もあるので、告白の際には相手のボディチェックも忘れないようにしよう。
【サ】
➤ 「財布」(さいふ)
…スムーズに奢られるために「払う意志はある」を演出するアクセサリー
【シ】
➤ 「失恋」(しつれん)
…失えるところまでいけるのは恋愛エリート
【ス】
➤ 「好き避け」(すきさけ)
…推しに会うと推しの目の前で発狂してしまうのであえて会いにいかない人のこと
【セ】
➤ 「セロトニン」(せろとにん)
…太陽の光を浴びると出て幸せになるらしい、美白至上主義国家日本の女が不幸なのは自然の流れ
【ソ】
➤ 「尊敬できる人」(そんけいできるひと)
…「理想の結婚相手は?」と聞いて、これが返ってきたら「お前にそんなこと答えるつもりはない」の意