18歳という若さで中原中也賞を受賞した詩人の文月悠光さん。詩のみならず、今の世を生きる女性として、誰もが感じる“生きづらさ”や“孤独”を綴ったエッセイ集も話題です。
このたび、そんな文月さんによる、12星座別「恋愛詩」の連載がスタート。毎月、月ごとの星座を主人公とした一篇を執筆していただきます。さらに、その詩をモチーフとしたコイズミリカさんの美しいイラストもお届け!
切なくて愛おしくて胸がキュンとする…詩とイラストのコラボレーションをお楽しみください。
蠍座座生まれのあなたへ

手を染める
落ち葉とまちがえて拾ってしまった。
片方だけの革の手袋。
しなやかに伏し、背を丸くして
わたしの知らなかったわたしが
こうしてひととき眠っていたのだ。
ヒールに響く痛みは いつしか
わたしを鈍く酔わせている。
枯れないと信じた愛も
信じ抜くままに終わっていくから、
あなたに わたしを変えさせてあげる。
まるで鏡ね。
あなたを映すために生まれた。
そうよ、わたしの前に立ち止まって。
願いに色づいていく横顔を
バーカウンターが艶やかに反射した。
隠し扉の奥にたたずむワインボトルから
一滴一滴を、この爪に落とす。
目覚めなさい、愛に手を染めたなら。
革の右手に、はだかの左手を重ねれば
ひっそりと羽ばたきはじめる。
血は熱く指さきまで達し、
一羽の鳥を秋夜へ放った。
「あの人はわたしの手袋だったんです」
彼女は告げた。
光を宿したまなざしで
空のワイングラスを縁取りながら。
【次回は11月「射手座の恋愛詩」】
☆この連載をするにあたって占星術家・まついなつき先生に西洋占星術をレクチャーしていただきました。
「12星座の恋 まついなつき×文月悠光」はこちら

プロフィール
文月悠光(ふづき・ゆみ)
詩人。1991年北海道生まれ。16歳で現代詩手帖賞を受賞。高校3年の時に発表した第1詩集『適切な世界の適切ならざる私』(思潮社)で、中原中也賞、丸山豊記念現代詩賞を最年少で受賞。詩集に『屋根よりも深々と』(思潮社)、『わたしたちの猫』(ナナロク社)。近年は、エッセイ集『洗礼ダイアリー』(ポプラ社)、『臆病な詩人、街へ出る。』(立東舎)が若い世代を中心に話題に。NHK全国学校音楽コンクール課題曲の作詞、詩作の講座を開くなど広く活動中。
★オフィシャルサイト「Fuzuki Yumi Website」
★Twitter「文月悠光@luna_yumi」

プロフィール
コイズミリカ
イラストレーター。1989年生まれ。
2012年 東京工芸大学デザイン学科卒業。
「言えないこと 見えるもの 彼女たちを通して絵にする」をテーマに、イラストやオリジナルテキスタイル等を制作。
★ホームページ「RIKA KOIZUMI」
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