気鋭の僧侶でありベストセラー作家でもある小池龍之介さんが、悩める女性の悩みにお答えするコーナー「恋愛成就寺」。恋に振り回される女心を諭す的確すぎる回答は、腹落ち感をもたらした後、ボディブローのようにじわじわ効いてきます。
(S・T 29歳 静岡県 会社員)
3年間付き合った彼にふられました。私と一緒にいると自由がなく、心がしおれてしまうというのが理由でした。
付き合う前のほうが生き生きして楽しかったと彼は言います。ショックです。長い付き合いなのでわがままも言いましたが、お互い率直に気持ちを伝え合っていると思い込んでいました。気兼ねなく話していたことが、彼にとっては重荷だったらしく、時には強い要望や脅迫にさえ聞こえていたと言われました。
ずっと彼は私のことがとても好きだから、こんなにいろいろしてくれるんだと喜んでました。彼のことはすっぱりと忘れて次の恋に向かいたいと思っています。でも、また同じような結末になるのはいやです。
率直に気持ちを伝え合うのは悪いことじゃない。
彼女はいいことだと思ってますね。 「自分が正しい!」と言い張っている感じを巧妙に押し殺していて「自分が悪かった」っていうニュアンスに書いているんですが、「自分が正しい!」という感じがしっかり文面に出てしまっていますね。
付き合いの中でもそういう「自分が正しい!」っていうのを背景にしたいろいろな要求をしていたのではないでしょうか。
例えば「結婚したい!」っていうプレッシャーを相手にかけていたとか、「他の女の人と会わないでほしい!」っていうプレッシャーを与えていたとか。「ひとりにしないでほしい!」というプレッシャーだったかもしれません。
脅迫って言われてるんですよね。
言うとおりにしてくれないと別れる、みたいなことも言ったかもしれないですね。
逆らうのが面倒なくらい不機嫌になるとか?
でもそれは自分の気持ちを素直に伝えていることだから、悪いことじゃないというふうに思っている。なのに不本意にも、脅迫されたみたいにとられてしまったので、悲しい。
でも、そうとられるからには、自分にも悪いところも、なくはなかったのかもしれない、というニュアンスがここにはありますね。
「率直に気持ちを伝える」とか「気兼ねなく話す」というのは理想的な関係だと一般的にとらえられていると思うのですが。
自分の気持ちを隠していて、お互いが何を望んでいるのかよくわからないというのは、コミュニケーションがうまくいっていない形の典型ですが、そういうのと比べると、率直に言う、まあ、自分が何を気に入らないとか、ちゃんと相手にわかっていてもらう、というのは、長く関係を継続していく上で、大事なことだとは思います。
ただ、このケースをみると、彼は率直に物が言えなかったみたいですよね。
重荷だってことを、重荷だからそういう言い方はしないでほしいとか、もっと早く彼が言っていればよかったんですけど。 つまり、少なくとも彼女に欠けていたであろう側面は、彼が何を思っているのか全然理解してなかったってことですよね。
彼が怯えたり、嫌がっていたとして、もしかするとそれは彼がナイーブすぎるせいだったかもしれないですけど、百歩譲ってそうだとしても、そうなっているなってことにもう少し早く気づくくらいのコミュニケーションがとれてなきゃ。
こうしてほしい、こうしないでほしいっていうことを目一杯わからせようとして自己表現をする一方で、相手も何かしら表現しているはずなんですけど、それを一切受け取らずにいた挙句、最後の最後につらかったから、もうやだよ、っていわれて。という感じなんでしょうね。
例えば、大人と子どもがいたら、大人は子どもが快適かとか、トイレに行きたくないかとか、気を使うと思うんですね。でも、子どもは大人が快適かなんて気を使わない。子どもと大人でいうと、彼女のほうが子ども?
そうですね。親として、彼は彼で色々心の叫びがあったんでしょうけれど、子どもは心の叫びにまったく耳を貸さなかった。
ので、最終的に親が蒸発してしまったていう感じなんでしょう。
彼女は、率直に付き合っているというよりは甘えきっていた?
「率直さ」を誤解しているかもしれませんね。 率直さっていうのは相互性のうえに成り立つものです。相手の気持ちがどうなのかということをちゃんと理解しながら、自分の気持ちも伝えていくという、相互のすり合わせのような側面があるのが大人の率直な付き合い。それに比べて、ずいぶん一方的だったんだろうなというふうに予想できますね。
つづく
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