2014.10.16

「“褒め屋”を検索した私」 雨宮まみの“穴の底でお待ちしています” 第10回

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穴の底でお待ちしています

誰にも言えない、けれど誰かに言いたい、そんな内緒の悩みやモヤモヤ、しょうもないグチからやりきれないつらさまで、穴を掘ってこっそり叫んでみたい気持ちを発散する、「感情の吹きだまり」……。そんな場所がこのコーナーです。あなたのやるせない気持ちを、安心してブチまけてみませんか? 雨宮まみが聞き手をつとめます。長文の投稿歓迎いたします。

(七映/女性/30代前半)
 誰かに褒められたいです。32歳の女です。5年前に結婚した相手は9歳年上のおおらかな人で、家が汚くても宝塚に通い詰めても許してくれる上に娘の面倒も文句言わずに見てくれます。保育園にも毎日送って行ってくれます。娘は3歳で、内弁慶なところはありますが、歌と踊りが大好きで、よく可愛いと褒めてもらえます。仕事は新卒で入社した会社に恵まれ、サービス業ですが保育園に合わせて土日休みの部署に異動させてもらったり、時短勤務制度も利用することができて、とてもありがたいと思っています。近居の義母は理解のある人で、主人の都合がつかないときには快く娘を預かってくれます。正社員で仕事しながら子育てもして、趣味にも時間を使えて、とても恵まれていると思います。

でも、そんな優しい主人は2年前に慢性腎不全となり、自宅と職場で透析しながら仕事をしています。タンパク質とリンと塩分、水分の食事制限もあります。一方、娘は半年前に顔に湿疹ができ、皮膚科で卵と牛乳のアレルギーと言われました。ずっとではありませんが現在除去食です。つまり、わたしは毎日、タンパク質とリンと塩分と水分と卵と牛乳が使えない中、食事を作っています。はっきり言ってときどき気が狂いそうになります。家族や仕事に恵まれて、しかもありがとうと定期的に言ってくれる主人だし、仕事を言い訳に家事も手抜きで子育てもDVD頼り、ついつい夜更かしもさせてしまいダメダメなのでおこがましいのですが……ときどき猛烈に誰かに褒めてもらいたい衝動にかられます。「褒め屋」と検索したこともあります。利害関係のない誰かに褒めてもらいたい!! でも掃除もルンバ、洗濯も全自動でそんなに頑張っているわけでもないし、趣味にも時間とお金を使いまくっているので、褒められたものでもないとわかってはいるのです。

(※身元がバレる危険を考え、多少表現をぼかしたり、一部情報を伏せさせていただいております。)

 よくぞ来てくださいました。まずご自宅にはないであろう牛乳をあっためてホットミルクにしてさしあげましょう。DEAN&DELUCAで仕入れたひとびん1500円のたっかいハチミツも好きなだけ入れていいですよ。よーく混ぜて溶かしてくださいね。

七映さん、あなた……(タメ)……偉いですねぇ……! ほんっとーに偉い! 毎日、よくがんばられてますね。

正直、自分の食事すらきちんと作っていないような私の立場から見れば、本当に七映さんは偉いと思うんです。でも、「私より偉い」という褒め方をするのは、今はやめたい。七映さんご自身が、「自分より大変な人なんていっぱいいるから、自分が愚痴を言うなんていけない」「私なんてラクしてるほう」だと強く思ってらっしゃるふしがあるからです。

そりゃあ七映さんより大変な人っていっぱいいます。七映さんよりラクな人もいっぱいいるでしょう。でも、じゃあ、誰が愚痴を言う「資格」があるんでしょう。どこまで苦しめば「弱音」を吐いていいんでしょう。どこまで頑張れば「偉い」と褒めてもらえるんでしょうか。

結婚して、優しい旦那さん、かわいい娘さん、理解のあるお義母さんに恵まれ、今なかなか就くことの難しい正社員勤務をされていて、趣味も持てるし良い電化製品も買えている。この状況をどこかで言えば「あなたなんて恵まれてるじゃない!」という反応が返ってくるのは私でも簡単に予想できます。

「自分は苦しい」と思っていることを、他人に「あなたなんてましなほう」「恵まれてるほう」と言われ、口を塞がれる仕組みは、誰のことも幸せにしないと私は思います。そこで口を塞がれて、吐き出さず飲み込んだ気持ちはどこに行くのでしょう? 

「それくらいのこと、誰だって我慢してる」「みんなやってる」。誰が言わなくても、それらの言葉を自分に向け、黙り込んでしまうことが私にもあります。私は好きなことを仕事にしています。ライターの仕事というのは、外から見えるよりもずっと地味で儲けの少ない仕事ですが、会社に行かなくて良いですし、私にはそれがとてもありがたいです。努力すべき点は、見えているだけでもたくさんありますし、それをやってもいないうちに愚痴を言うなんてとんでもない、自分より才能のある人がさらに努力もしている世界でそんな、と思うと、とても「苦しい」「もういやだ」なんて言えない気持ちになるのです。「もういやだ」という言葉を吐き出すことで、本当になにもかもがいやになる事態を避けられることもあるのに、です。

言わないでいれば、苦しい気持ちが消えてなくなるわけでもないんですよね。私は、ライターになって7~8年経った頃に一度だけ、身近な人に「本当によく頑張っている」と言われ、ボロボロ泣いてしまったことがあります。そのとき、7~8年分の悔しさやつらさ、苦しみが全部スーッと成仏していくような感覚がありました。あんなに悔しかったのに、あんなに苦しかったのに、たったこれだけのことで、「本当にこれだけの間、よく頑張ってきたね」の一言で、救われてしまうことだったのかと驚きました。

えらい、えらい、がんばってる、十分がんばってる、たったそんだけほめるだけで喜んでもらえるなら、七映さんの気が楽になるのなら、もうワーッショイ! ワーッショイ! ってみこしに乗せて担ぎながらほめまくってあげたいですよ。だって、どう考えたってがんばってるでしょう。すごいですよ! 私が言って効果があるならいくらでも言いたいです。でも、本当なら、誰か七映さんの頑張りを知っている人が言ってくれたら、ワーッショイ! とかしなくてもいいのに、とも思うんです。「利害関係のない人に褒めて欲しい」という七映さんの言葉は、旦那さんやお子さんに褒めてもらうことで「いつもすまないねぇ」的なニュアンスの負担を強いたくない、それがつらいということを知られたくない、という優しさであり、愛情なのではないか、と思います。

七映さんのお話を読んでいて、思い浮かんだことがあります。それはうちの母のことです。私は初孫で、両親は父の実家の、農家の本家に同居。そして私は、母乳を決して飲まない子供だったそうです。ミルクはどんどん飲んだそうで、こうしてデカデカと育ちましたが、そのときの苦労を母が笑って話すことがあります。

昔は「そうだったのかー」程度に思っていましたが、古い考えが根強い農家で、初孫、そして母にとって初めての子が母乳を飲まないというのは、どんなに不安で風当たりの強いことだったかと思うのです。母乳を飲まない。はたから見れば「たったそれだけのこと」でしょう。けれど、たぶんそれは「たったそれだけのこと」なんかではなかった。

そうした苦労を、笑って話せるというのは、どんな気持ちなのでしょうか。私は、そこまでの深い愛情を、果たして自分が誰かに持てるものだろうかと思います。

私は七映さんのような経験をしたことがありません。ですから、七映さんの気持ちがわかる、とは言えません。けれど、七映さんの苦しさが、愛情ゆえのものだというのは想像できます。七映さんの苦しみは、無駄なものではないし、決して軽んじていいような苦しさではない。自分の作る食事に家族の健康がかかっているというのは、どれほどのことか。私には想像もつきません。

苦しいときでも、自分が何を求めているのか冷静に考えて、「褒め屋」で検索できるくらいものごとをわかっておられる七映さんの理性は素晴らしいと思います。こんなネットの片隅で、ゆきずりのような間柄の私ではありますが、七映さん、手抜きだなんて言わなくていいんですよ。ダメダメだなんて言わなくていいです。そんなこと、言わなくていい。手が抜けるところなんか抜けばいい。みんなが等しく頑張り、等しく苦しむことなんかないんです。できることの量も、力も、命の長さも、人は自分で決められないでしょう。だから、同じだけ苦しむことが正しいわけじゃない。もっと苦しい人がいるから、自分の苦しみなんて軽いものだと考えることは、間違ってます。自分が苦しいと感じたら、それは「苦しい」っていうことでいいんです。

そして、愛情溢れる家族に囲まれている七映さんですから、お子さんや旦那さん、お義母さんに感謝の言葉を言ったついでに褒めたりして、冗談でもいいから「私も褒めて~!」と言ってみられてはいかがでしょうか。宝塚がお好きだそうですから、理想の褒めの入った長台詞を「誕生日に言って!」とお願いするとか、こっぱずかしいことをやってみるのも、けっこうスッキリするかもしれないと思います。

最近、アメリカの『モデルズ・オブ・ランウェイ』というドキュメント番組を観ていたら、合宿中のファッションモデルの一人が「孤独だよ~! 誰かハグして!」と言って、普通に抱きしめてもらっていました。恥ずかしいですけど、私も高校生のとき、試験の朝に怖くてたまらず母に頼んで抱きしめてもらったことがありました。そしたら絶賛思春期中の弟(同じくテスト中)もついでに母に抱きしめてもらっていたのです。すごく幸せな記憶です。普通にハグとかされてるかもしれませんが、もしされてなかったら、朝ドラ『マッサン』とかにかこつけまくってノリでやってみられてはいかがでしょう。私のような褒めベタの人間がワーッショイ! とかやるよりも、それは、ずっと効き目があるように思えるんですよね。


みなさまの愚痴を、雨宮まみが「穴の底」にてお待ちしております。長文大歓迎!
恋愛相手の愚痴も、職場環境にまつわる愚痴も、誰にも言えない愚痴も、「スポーツジムのおじさんの汗がキモイ…」みたいなしょうもない愚痴も、なんでもござれ。大なり小なり吐き出して気を楽にしませんか?
「どうしたらいいでしょう?」のような相談は受け付けておりません。ごめんなさい。


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雨宮まみ
雨宮まみ(あまみやまみ)
ライター。アダルト雑誌の編集を経て、フリーライターに。女性の自意識との葛藤や生きづらさなどについて幅広く執筆。女性性とうまくつきあえなかった頃を描いた自伝的エッセイ『女子をこじらせて』出版後、「こじらせ女子」がブームとなる。他の著書に対談集『だって、女子だもん!!』(ポット出版)、『ずっと独身でいるつもり?』(KKベストセラーズ)、『女の子よ銃を取れ』(平凡社)、『タカラヅカ・ハンドブック』
(新潮社)など。

「キレイになりたい!」と言えないあなたに。

『女の子よ銃を取れ』

他人の視線にビクビクしたくない、自分らしく堂々としていたい、かわいい、キレイと言われてみたい……そう思っていてもどうすればいいのかわからないし、「キレイ」への道が怖くてたまらない。
キラキラした「キレイになりたい」本を手に取ることすら怖いと感じるくらい、「キレイ」が重荷になっている人のための、自意識や他人の視線、自分の視線を解きほぐす本です。

雨宮さんより一言:
何をしても、何を買ってもうまくいかない、変われないしパッとしない……。そんな悩みは、本当は多くの人が持っています。それ以前に何をすれば、何を買えばいいのかもわからない人だってたくさんいます。この間まではわかっていたのに、急にわからなくなってしまった人も。そんなときに、自分を取り戻し、新しい自分を作り上げるヒントや、気持ちの持ち方の軸のようなものがあればいいなと思って書きました。落ち込んだときのおともにしていただけると嬉しいです。

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