恋愛短編小説『恋百色』 第10話「ヒールを買いに」

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恋百色

誰かが誰かを好きになって、ちょっぴり涙する。そしてピョンとはずむ。いつもより少しだけ高く。
誰かがあなただけに打ち明ける、失恋ショートストーリー

第1・第3曜日更新

作・みよろり

第10話「ヒールを買いに」

仕事に専念したいとか、女として見られなくなったとか、恋愛関係を解消するときに男が口にする理由というのは色々ある。だけど、山本将樹が言ったその理由はあまりに最低だと私は思う。祥子が号泣するのも無理はない。
 
「そろそろ真面目に婚活、始めたいし。ごめん」
 
なんだそれ。ごめん、じゃねぇよと。「体目当てだったのか」と私なら殴っている。でも、頭が良くて綺麗で、プライドが人一倍高い祥子は、将樹がその言葉を言い放った時も「ちょうど良かった。私もそう思ってたの」と強がって帰ってきたらしい。
 
呼び出されてバーに駆けつけると、私の顔を見るや、祥子は「カヨちゃん!」と叫んで泣き崩れた。男の前ではいつもクールだけど、私には格好悪いところをさらけ出して甘えてくれる祥子は、妹のような存在だ。何としても敵を討ちたいと私は思った。
 
祥子と将樹の出会いは2年前。グループ会社共同の創立記念パーティーで知り合い、しばらくして交際を始めた。言っておくが、祥子の勤める会社が親会社で、将樹の方は買収された子会社だ。
 
「でも、そんなこと関係ない。私の想いが一方通行だったの」
 
「気持ちは買収できなかったのね」と言おうとしたが、笑い事じゃない、と自分に突っ込んでセリフを飲み込んだ。
 
「諦めるしかない。私と将樹さんはもともとアンバランスだったから」
 
確かに、親会社の彼女と子会社の彼氏というのはアンバランスだし、お互いの気持ちの重さもアンバランスだったのだろう。しかし、どんな理由にせよ、別れるのにだって礼儀は必要だ。「婚活を始めたい」なんて人を傷つけるだけの暴言でしかない。
 
「今年のクリスマスは、リングがプレゼントだったらなぁなんて思っていたのに…。馬鹿だな私」
 
哀れだ、哀れ過ぎる。この深く痛手を負った祥子の気持ちを何とか晴らしてやりたいと、私は思い付く限りの仕返しを挙げた。
 
「会社に誹謗中傷のビラをばら撒く」「犯罪よ」「呪いのメールを1万通送りつける」「犯罪」「待ち伏せてスパナで殴りつける」「それも、犯罪。私、仕返しなんてしないよ。みっともないわ」
 
結局、祥子はその日「話を聞いてくれてありがとう。少し元気が出た」と言って帰って行った。むしろ私の方が、怒りを鎮めることができずにイラだったままだった。
 
しかし翌日、祥子にその後のてん末を聞いて溜飲が下がった。
 
祥子は私とバーで別れた後、繁華街へと向ったらしい。そしてブティックに入って「靴」を探したのだ。それは、祥子が自分自身に贈るクリスマスプレゼントだった。
 
「この中で一番高い靴をください。とびきり高い靴を」
 
店員が持って来たのは、ジミーチュウの赤いピンヒール。値札には「15万円」。値段も、かかとの高さもとびきりだった。祥子は清水の舞台から飛び降りる気持ちで「これにします」と言ってピンヒールに足を通した。
 
「そのパンプスは捨てておいて下さい。このままこっちを履いて帰るので」
 
そして、祥子はその足で、将樹のマンションへと行ったのだと言う。スペアキーを彼に返すために。
 
ドアを開けた将樹は、驚いて祥子を見上げたらしい。グッと首を上に伸ばして、見上げたのだ。だってそうでしょう。今まで祥子は将樹のために、かかとの低いパンプスしか履かなかったのだから。自分よりも背の低い将樹に気を使って、2年前、祥子は持っていたお気に入りのヒールたちを全部処分していた。
 
「鍵、返しに来た」凛と将樹を見下ろして、祥子は鍵を突き返した。「う、うん」アンバランスな男女が視線を交わす。「じゃ、さようなら」
 
高いヒールを履いた祥子は、ずいぶん綺麗だったろうと私は思う。その姿こそ、気高く美しく、理知的で上品な、彼女らしいリベンジだったのだから。

〈第10話「ヒールを買いに」おわり〉

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次回予告
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みよろり
関西出身、牡牛座、AB型。広告代理店、出版社を経て、フリーライターに。世間の幸と不幸を吸収し、ゆるりと執筆中。

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