恋愛短編小説『恋百色』 第9話 「おセンチなサンタ」

Loading
恋百色

誰かが誰かを好きになって、ちょっぴり涙する。そしてピョンとはずむ。いつもより少しだけ高く。
誰かがあなただけに打ち明ける、失恋ショートストーリー

第1・第3曜日更新

作・みよろり

第9話「おセンチなサンタ」

ヒロミチと初めて出会ったのは2年前です。今でもはっきり覚えています。
 
彼は、校章がキラリと光る黒の学ランを着ていました。ほんの一瞬、私の方をチラッと見ただけで、その後は目を合わせようともせず、うつむき加減に視線を落とし、ポケットに手を突っ込んだまま「よろしく」と呟きました。
 
今思えば、たぶん、その時彼は必死で「照れ」を隠そうとしていたんじゃないでしょうか。でも、中学生だった私には、その「お前になんか興味ねぇよ」っていう冷めた態度がとても大人びた感じに見えました。逆に私は、前の夜は一睡もできなかったほど、興奮していたのです。
 
どんな人が、私のお兄さんになるんだろう、仲良くできるだろうか、ほんとに一緒に生活できるだろうか、怖い人だったらどうしよう、変態だったらどうしよう、どうかどうかお願いします、普通の人でありますように、気難しい人ではありませんように、できれば、イケメンだと嬉しいけれど、わがままは言いません、神様!
 
私の母と篠森さんが再婚して、突然私の兄になったヒロミチは、優しい神様のおかげで、驚くほどに、恐縮しちゃうほど、とても格好良かったのです。その時私は、まるで自分が少女漫画のヒロインにでもなったかのような気分でした。この人と今日から一つ屋根の下で暮らすのか、と考えると頭がクラクラとしました。とても心地よいメマイがしたのです。
 
でも現実は、少女漫画のように、キラキラとしたものではありませんでした。
 
男子高校生と女子中学生、まさに微妙なお年頃です。思春期まっただ中の私たちは、子どものように無邪気に打ち解け合うこともなく、また大人のように割り切った感情を持つこともできずに、ただギクシャクと「リツコさん」「ヒロミチさん」と「さん」付けで他人行儀に呼び合って暮らしました。弾んだ会話をしたこともありません。あれほどときめいていた私の心も、足踏み状態。2年なんてあっという間に過ぎてしまいました。
 
そして、今年、大学生になったヒロミチは、家を出て一人暮らしを始めました。
 
別に、大学だって家から通える距離なのに、そんなに共同生活が気まずかったかしら、もっと一緒にいたかったし、仲良くなりたかった。ヒロミチが出て行って、「足踏み状態」だった私の心は「地団駄」を踏みました。

「大学でさっそく彼女ができたらしい」
 
篠森さんが、ハハハハハハ、と嬉しそうにそう言ったのは、8月のことでした。夏休みになっても全く家に顔を出さないヒロミチに連絡をとると、そう返事があったと言うのです。ショウコさんという先輩と付き合っているそうです。進路相談で、ヒロミチの大学を第一志望にあげていた私は、なんだかすっかり勉強する意欲を無くしてしまいました。
 
ところが先日です。クリスマスイブの夜のこと。いきなり、ヒロミチが家に帰ってきたのです。久しぶりに見るヒロミチは、ゆるくパーマをかけ、サークルのスキー合宿のせいか、浅く日焼けしていました。
 
「アパートの風呂、壊れちゃった」
 
ヒロミチは、持参したケーキを母に渡し、「風呂借りるよ」と言いました。そして私に、なんと、赤い紙に包まれた小さな箱を手渡したのです。ぶっきらぼうに、「あげる」と。私は、両親の目の前で飛び跳ねて喜ぶこともできず、「あ、ありがとう」と平静を装い受け取りました。ヒロミチはそそくさとバスルームに入って行きました。
 
「こりゃ、あいつ、彼女にフラれたな」
 
ケーキのデコレーションを見た時に、篠森さんがそう言いました。ケーキに飾られた砂糖菓子のサンタクロースは、ハートのチョコレートを両手に持っていました。確かにそのケーキはファミリー用ではなく、カップル用の小さな物でした。
 
今、私のポケットに入っている小箱も、私にではなく彼女のために用意されたものだったのかと思うと、意気消沈してしまいました。
 
私は、バスルームの前で、出て来たヒロミチを捕まえ箱を突っ返しました。
 
「これ、ほんとは彼女のでしょ。受け取れません」「は?」「フラれたんじゃないの?ケーキのサンタ、ハートを持ってた」「あ、バレちゃった?」ヒロミチはペロリと舌を出しました。「返します」「でも、それはほんとに、リツコのために買ったんだ」
 
そう言って、ヒロミチはそのままリビングに向わずに玄関に下りて行きました。ドアが閉まる間際、「メリークリスマス」と言った彼の表情は少しセンチメンタルでした。
 
私はすぐに部屋に戻って箱を開けました。それは、リボンをモチーフにしたシルバーのイヤリングでした。私はトキメキを耳に飾り、「確かにさっき、呼び捨てて、リツコと言った。ヒロミチがリツコと言った」と何度も呟きました。おセンチなサンタの思わぬプレゼントに、ベッドの上で足をバタバタとさせて、私はすっかり舞い上がっていました。

〈第9話「おセンチなサンタ」おわり〉

<<第8話「時計仕掛けの彼氏」

次回予告
第10話「ヒールを買いに」12月18日(水)更新

みよろり
関西出身、牡牛座、AB型。広告代理店、出版社を経て、フリーライターに。世間の幸と不幸を吸収し、ゆるりと執筆中。

 【PR】 

この記事の関連キーワード

【PR】

今日の恋愛予報 12星座ランキング

ランキング

人気のキーワード

  • cocolonitv
  • LINE@
  • 恋愛酒場“泣きっ面にヒロシ”
  • 石井ゆかり 2017年上半期の占い
  • 石井ゆかり 12星座別今週の占い
  • 誕生日占いパレット
  • 相性占い特集
  • タロット占い特集